第29話 去った後の町の様子

ユーウィスたちが狂信者たちを追って森林地帯へと足を踏み入れている頃、町に残ったチセルは確認を兼ねて情報収集をしていた。

その結果、あの集団がこの町に居た時間は其程長くは無いようで、影響も其程受けてはいない様子だった。その時に集団が町人たちに言っていたらしいが――


「確かに、信じるには怪しすぎるかなぁ…」


集団が言っていた内容というのが、世界を救うだとか、救世主だとか、信憑性の薄いようなものが大半だったらしい。町の人々の反応はそれぞれだったようだが、あまりに現実味の無い話だったが為に、流石に完全に信用するような事は無かったという。町人が変に洗脳されたりしていないことに安心はしたけれど、其れよりも気になる事が判明した。


「あの連中よりも先に来た人か……」


どうやら狂信者集団が町へと入ってくる少し前に、町に訪れた女性が居たらしい。その女性自身は集団と違って何かをするという雰囲気は無かったようだが、後から来た集団はその女性を見つけては集まってきたらしい。

そしてその後に集団は町に獣を呼び寄せようとして町はパニックになったらしいが、その女性が魔術と言うよりも奇跡と呼べる程のものを起こして、獣を一掃したらしい。チセルたちが町に到着する前に目撃した雷は恐らくこの時のものだろう。確かに天候にすら影響を与える程の術は一般では使える者は居ないので奇跡と呼べるかもしれない。

そして此処までの事でその女性こそが魔術の王であることは間違いない。しかし、その後の行方は誰にも分からないようであった。


「行方不明なんだったらあの集団の行動にも納得は出来るか…」


魔術の王の方が集団から逃げているのならある意味都合が良い。あの集団が何かを企んでいるのは明確であり、魔術の王を手中に収めてしまえば其れを利用して行動に移すことは不可避だ。存在を利用しようとする程なら、逃げればその分行動も遅れることだろう。

肝心の魔術の王は自身が発生させた雷に撃たれて骨も残らず消え失せたと噂を聞いたが、流石に自身の魔術で命を落としたという事は考え辛い。きっと逃走のカモフラージュだと思われる。他ではパフォーマンスと自害とは捉えていない噂もあった訳だし。


「あ、あの旅人のお姉さんのこと?」

「多分そう…かな? どんな感じだった?」


情報を集めていた最中、魔術の王と会話をしたらしい少女と出会った。

その少女に会った人の事を聞いてみた所、意外と平和的な内容だった。


「それでね、お話を聞いてくれてね――」


少女が感じた印象と言うのが、怖くなかったや、優しい目をしていただとか、微笑ましく見守る親のような雰囲気があったようで、警戒していたのが馬鹿らしく思えてくる。

あれだけの力を振るうことに躊躇いは無いとか少しばかり思っていたのだが、予想以上に敵意というものが薄そうである。其れこそ少女が初めに思ったように、世界を見て歩く旅人といった感じ。


「あのビリビリもお姉さんがやったのかな?」

「さあ…?私は実際には見てなかったから分からないなあ」


流石に幼いだけあって魔術と迄は認識していないようであった。

そんな少女と会話を交えながら別れ、チセルは再び人から町の方へと意識を向けた。

それにしても、様々な人から話や噂を聞いていたが、不審者に関しての情報はあまり無かった。(この場合の情報は町に居座っている不審者の事である。)

明らかに誘導しているような行動に思えたからこそ、別働隊が何処かに居るのだと思ったが違ったのだろうか。其れとも別働隊は既に別の場所に居たのだろうか。魔の手が引いたのは良いのだが、素直に安心できない所があった。


「取り敢えず滞在の準備でもしようかな」


安心出来るかはさておき、数日滞在する予定である為、チセルは町の入り口付近に置きっぱなしになっている荷台の下へと戻った。ユーウィスがユニコーンを戻したがために移動の足としては使えないが目印にはなっている。そんな荷台の隣で監視も兼ねてキャンプでも設置しようかと思った。旅暮らしをしていると野宿をするような状況も少なからずあるので、野宿道具は持ち歩くようにしている。組み立てる為に野宿道具を荷台の上に広げる。広げていたら視界の隅に何かが見えた……気がした。


「ん?」


チセルは気になって野宿道具を一旦仕舞ってから、その方向へと確認に行った。此れが単なる気のせいだったり、只の町人だったら気にせず戻ろうと思っていた。思っていたのだが、確認した先に居たのはローブ姿の者だった。


「ぁむぐむぐ…!」


一度思考から外しかけていた所の発見だったがために思わず叫びそうになったが、寸前で口を塞いだので、相手には何とか気付かれてはいない。

その相手はというと、此方に背を向けたまま何かを呟いていた。だけどこの距離では聞こえない上、独り言も直ぐに止めたようだ。そして相手は地面にこっそりと何かを刻んでいる。其れが済んだ後、周りを気にしながら移動を開始した。


チセルは相手が去った後にその場に残されたものを確認した。地面に刻まれていたのはある種の魔法陣だった。だけど此の魔法陣から読み取れる情報は何処か欠けていた。ただ、欠けていると言ってもあのローブが間違えたというよりは、他の魔法陣と連動する事で作動するタイプであるようであった。其れも古いタイプ。この手の弱点としては一つが駄目になれば全て起動出来ない点である。

やはりこんな物を用意してまで何かをしようとしていたようである。チセルは発動しないように地面に刻まれた魔法陣を掻き消して、ローブの後を追った。


「…この方向って…?」


後を追ってみると、ローブは用が済んだかのように町を出ていた。その行き先は何を思ったのか、先の者たちが向かった方向と一緒だった。

彼方にはユーウィスたちも居るので、態々自分から捕まりに行ってくれるというのなら都合が良い。其れなら身柄の方は任せて、此方は念のために他に魔法陣が無いかを調べよう。


「あ、任せるなら報告しないと」


チセルはユーウィスに渡した物と同種の通信道具を取り出し、起動するように魔力を込めた。其れにより通信道具は淡く光を生じ始めた。



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