第19話 西部風の町
「さっきの光は何だったんだ…?」
「あれは魔術か何かだろう…だが、そうだとすると尋常じゃないな…」
「ええ、確かに」
彼方に、大気を震わす程の光の柱を目撃してから数分後。
平原を進む馬車の中で、当然の如くそのことが話題になってた。
「確かにあの規模は尋常じゃないが…」
「いや、俺が言っているのは規模だけの話じゃない」
「そうなのか?」
「あの光が十中八九魔術だとして、あれほどのことをするのに膨大な量の魔力が必要になるからね。其れに魔法陣の構築も相当な式を組み込んでないとあれだけの規模は出来ないの」
魔術にあまり通じていないリーガルの疑問に対して、専門分野というだけあってユーウィスとチセル・アトラトルが魔術についての説明や疑問を語る。
とはいえ、魔術を専攻していた二人からしてもあの光は不可解な事だらけであった。
「アレはどう見ても人の魔力保有量を超えている。そこらの術師が出来ることじゃないな」
「そうね。あんなことが出来るのなら当然相当な実力だろうし、名前が通っていても不思議じゃないもの。だけどあんな現象すら聞いたことはないからね」
一人で行ったのか複数人で行ったのかは不明だが、あんな魔術が存在するのなら其れはもう兵器レベルに認定されて、使い手は危険視されていても不思議では無いというのにそんな話は知らない。
とはいえあの規模だ、発動出来たとしても良くて行動不能、悪くて死を迎えている可能性も考えられるので時間と共に忘れ去られたという場合もあるかもしれない。
だがそうなると何故その術が復活したかという疑問が浮かぶ。
今は目的があるので下手に関わろうとはしないが、注意しておかねばならないかもしれない。
「まあ俺には度合いは分からねえが、要するに術者は只者じゃねえな」
「……簡単に言えばそういうことだ」
リーガルが予想以上に雑に話を聞いていたのは放っておくとして、三人で顔も知らぬ術者の話をしていると、何時からだったのか、荷車を引いている召喚獣ユニコーンが何かを言いたそうにしていた。此方の会話に遠慮していたのだろう。遠慮出来ていたということは魔力供給の件では無さそうだ。一体何だ?
『主よ、確か目的地は先程の光の方角だったのでは?』
「ああ、方角としては間違ってはいないが、道は少し逸れるだろう」
『ならば、あの光の正体は放っておいてよいのだな?』
「ああそうだな。今は警戒程度で、調査は時間があるときにでも調べにいくさ」
「もしかしたら依頼はアレに関係してたりしてな」
アレと直接関わるのは厄介事にしかならなさそうだから、出来れば遠慮したい。ましてやあの光の術者と敵対するような事になれば被害は免れないだろう。
そんな警戒ムードが生まれながら進む中で、リーガルがふと今更のように次の話題を切り出した。
「そういやあ…あの馬、喋れるんだったな」
「ああ、そういう風に生み出したからな。リーガルには見せたこと無かったか?」
「いやさっきから聞いちゃいるが、馬と言葉を交わすなんてあんな無い経験だと思ってな」
それはそうだろうと思ったが、なんとなく言わないでおこう。
『主よ、二時の方角に町があるようだが、どうする?』
「町?」
方角を確認し直す為に正面に向いた時、ユニコーンがそんな事を言ったので、その方角を見てみると確かに町らしきものがあった。地図で確認してみたところ、目的地というわけではなく、途中にある小さな町なようだ。
「町か…」
「どうするの?目的地ではないんでしょ?」
「いいんじゃないか?もうすぐ陽も暮れるだろうし、今日は早めに休めるところでも探そうぜ」
「そうだな…そうするか。ハクもそれでいいか」
「ん」
目的が決まり、一行は進路を変えて小さな町へと向かって行く。
町の中へと入る前に、町人に変に怪しまれない為にユニコーンを一度戻し、荷車を人目に付かなそうな場所に隠してから、一行は町の中へと入った。
町に入ってみると、時間帯の問題なのかあまり人の姿は見かけず、西部劇にでも出てきそうな雰囲気の閑散とした町だった。
「あまり活気を感じないな」
「外に出てないだけじゃないか?」
とりあえず宿でも探そうと、近くにあったそれらしい看板の出ている建物の扉を潜る。すると店内は外とは対照的に人で賑わっていた。どうやら酒場らしい。カフェなんて洒落たものではない。西部劇で「表へ出な」とでも言われそうな風情のあるバーである。
「ここは随分賑わってるな」
「情報収集には良さそうな場所だ」
そう言うとユーウィスは奥の空いていたカウンター席に座る。あとの三人も追うように席に座る。すると隣に座っていた中年男性が気付き声をかけてくる。酒臭い。絡み酒か。
「っ…なんでい兄ちゃん、見ねえ顔だな」
「仕事でこの近くを通ったものですから、今日はここで休める場所を探そうかと立ち寄ったんです」
「あー、旅の者かい。なら二つ隣にある宿を進めるぜ。そこの主が気前良くてなあ」
「そうですか。ではそうします」
「ちょいと待ちな兄ちゃん。折角だから何か飲んできな、俺の奢りだ」
席を立とうとしたら呼び止められた。
一応未成年なんだが。
「酒は飲めませんので遠慮します」
「ならジュースでも飲みな。そっちの奴らも兄ちゃんの連れだろ?そいつらの分も奢ってやるよ」
それならいいか。奢ってくれると言うのだからここは素直に受けよう。
そしてそれから中年男性の話に付き合う形となり、宿に着いた時には日は完全に沈んでいた。どんだけ長いんだあの人…。その後、簡単に夕食を済ませるために再び酒場に来ると、再び絡まれた。またかい。
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