第20話 依頼が来た場所
次の日。
朝早くに起きたユーウィスたちは宿から出ると、そのまま酒場へと移動する。泊まっていた宿屋では朝食は出ないとのことなので、酒場で売っていた軽食をいくつか買い(朝は酒の提供を止めて、売店として飲食物を提供しているらしい)、酒場の外で朝食とする。
「こう言っては何だが、思ったより治安は良さそうな町だな」
「お前はどんなものを想像してたんだよ…。酒の問題は兎も角、見たところ悪漢とかも少なそうだぞ」
「確かにな」
ユーウィスは町の雰囲気から自然に西部劇のイメージを抱いたが、其れはイメージであり、この町は想像よりも落ち着いている。銃撃戦などに巻き込まれても困るが。そもそも銃撃なんてこの世界ではあまり無いけれど。…代わりに砲撃や魔法なら有るが。
「此処には用もないから此れが済んだら出発するが……アトラトル」
「何?」
「お前は此処で降りるのか?」
チセルはユーウィスたちとは違って旅の途中だ。偶然移動を共にしているが最後まで同行する必要はない。本人も途中で降りることを此処に来るまでに話している。
ユーウィスがチセルにそう訊くと、チセルは其程考えもせずに答えた。
「いや降りないよ?」
「なんで?」
「此処には出る幕は無さそうだからね」
そういえばチセルの目的はボランティア活動だったか。其れならこの町でも出来る事があるだろうが、チセルは必要ないと判断したようだ。
「それじゃあまだ一緒に来るのか」
「そういうこと」
チセルもまだ一緒ということらしいので朝食を済ませた後、一行は町の外に出て隠していた荷車を回収すると、ユニコーンを呼び出して再び移動を開始した。
そして一時間、調子が良いのか、速度は前日とあまり変わっていない筈なのだが思いの外順調に進んでいく。
「あと、どれくらいかかりそうなんだ?ずっと座りっぱなしというのも割とキツいぞ」
「昨日も座ってただろ…。昨日の移動距離と時間を基に考えると…あと一時間程ってところか?」
「あと一時間か…」
「暇なら、昼食にでもするか?」
「昼食にはまだ早いが…何かつまむか」
そう言って、リーガルは酒場で朝食と一緒に買っておいた食料を雑に広げる。
買った食料多めで、肉メインや野菜メインなどのサンドイッチ計八種、ハンバーガーにフライドポテト大盛り。某飲食店にでも行ったようなジャンクなメニューだ。
その中からフライドポテトを選び取っては一本一本口に運び出した。豪快に放り込むのかとも思ったが、煎餅のように黙々と食べている。そして景色を見ている。
「そういやさ」
「なんだ?」
「いや、案外平和だと思ってな。この辺りも猛獣の討伐依頼とか偶にあるはずなのに、移動中そういうのは全然見かけないだろ?」
「言われてみればそうだな」
確かに、依頼でこの辺りで討伐するものも見たことある上、こういった開けた平原などは獣に狙われやすく、移動の為に騎士や傭兵が護衛に付くという場合もある。以前リーガルがその手の依頼が騎士団には来ていると聞いたことがある。
ユーウィスがすっかり忘れていた程に今居る場所は危険を感じられなかった。
『恐らくだが、昨日の光の柱が原因だろう』
そんな時、確信を持っているかのようにユニコーンがそう言った。いきなりの情報提供にユーウィスは聞き返す。
「どういうことだ?」
『あれが現れてから周辺にはその余波と思われる魔力が漂っているようだ。昨日はあまり気にならなかったが、近づいた為か、それが顕著に感じ取れる。深く、大きく、底の知れぬ強大な魔力。微かでこう感じられるのだ。そこらの獣は本能的に脅威と感じ取ってこの場を離れたのだろう』
「そうかそういうのもあったか」
確かに可能性は考えられる。
あれだけの魔力による光だ、一点に集中させて放っていたとしても、力の何割かは周囲に流れ出て影響が出てくる筈だ。
その証拠とばかりに現在進行形で周囲の動物に危機感を与えているらしい。
「脅威か…やっぱり一度調べた方が良いのかな?」
「分からない。これから何かは起こるかもしれないが、俺たちはまず依頼だ」
自分に関係しているかしていないかはさておき、きっと此れから世間にも何かしらの影響は与えるだろう。ユーウィスはそう思った。
『して、主よ?私の分は無いのか?』
「あー悪い、忘れてた」
サンドイッチを一つ取ってユニコーンに時折食べさせながら、馬車は平原を進んでいく。
すると、前方に小さな町、いや…村だ。
地図で確認するとそこが依頼主が居る村のようだ。
馬車はそのまま村に入るが、村のあちこちの建物の壁が崩れ、廃れている。
「なんだ…どこも壊れてるな」
「どう見ても廃村だけど、本当に此処なの?」
「…人居ない…」
馬車を止め、ユーウィスは近くの崩れた壁を調べる。
木材は腐り、土壁は触れた途端に砂のように崩れていく。崩れ具合や使われている素材の状態からしてこうなってから二日、三日というわけではないだろう。枯れている印象すら受ける。なら…
「何処かに手紙を寄越した依頼主が居るはずだ。探そう」
ユーウィスたちは再び村の中を進みだす。
すると入り口から最も離れた場所に他とは状態が異なる一軒家を見つけた。
「此処だけ状態が違う…居るとすれば此処だな」
ユーウィスは扉をノックする。
すると扉の奥から声が聞こえ、扉がゆっくりと開いた。
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