第21話 伝承
「なんじゃ、客人とは珍しいのぅ」
ユーウィスたちが訪れた廃村かと疑いたくなるように枯れた村で唯一残っていた家屋。その扉を開けて出てきたのは、背筋が伸びた若々しい老人だった。
「突然すみません。俺はユーウィス・メルテットハーモニスと言います。貴方がこの手紙を出した依頼主ですか?」
その台詞と共に確認を取るためにユーウィスが依頼の手紙を出すと、其れを見た老人がおお、という反応を見せた。どうやら依頼主はこの老人で間違いないようだ。老人は一行を順番に見た後、部屋へと通すように手を動かす。
「よく来てくれた。ささっ、中に入るといい。話は座ってからにしよう」
「すいません、少し待ってください。
・・・リーガル、一緒に来い。残りは外で待っててくれ。」
中に入る前にそう指示しておく。
リーガルだけを同行させて残りの者たちを外に待たせた事には理由がある。
此処からは仕事の話だろうから出来るだけ聞く人数を少数にしたという他に、依頼人を信用していない訳ではないが中に入った自分たちに何かが起こるかも知れない為に全員共倒れさせる訳にはいかない、逆に外に何かがあった場合の連絡係でもある。
人選についても問題はないだろう。チセルはユーウィスたちと同期なだけあって魔術を其れなりに使えるだろうし、今のハクは戦闘力は無いだろうがユニコーンを戻さずに出したままにしているのでカバー出来る。
詳細は言っていないが指示を聞いた者たちは承諾するような反応を示した。
チセルは仕事に関しては部外者故か元から話を聞くつもりは無かったようで軽く手を振って見送っている。
ユニコーンは理解してくれたようで、その場で休みながら周りを見渡している。
ハクはその背に移動して同じ方向を見ている。こっちは恐らく理解してないだろうが良いのだろう。
そんな仲間たちを置いて、一軒家の中に入ったユーウィスとリーガルは通されるままに椅子に座り、早速とばかりに老人から依頼の内容を聞く。
「本題の前に聞いておくが、おぬしたちは"原初の魔法使い"の話は知っておるか?」
「原初の魔法使い?」
原初の魔法使い…どこかで聞いたな。
確かこの世界の歴史の教科書に載っていた名で、原初の魔法使いは複数存在するが、特筆されるのは魔術の王、魔王と呼ばれる者一人。
それはその名の通り魔術最初期の魔法使いであり、他の追随を許さない強大な力を持ち、はだかる者全てに滅びを与えていたが、其れを危険とみた者たちによって最後には封印されたという…。
「確かに聞いたことはあるが、なんでまたそんな名前を…」
「実はな…この近くにはその者が封印されているとされる場所が存在するのじゃ。」
「まじかよ…」
そんな話を聞きながら、ユーウィスはふと先日の光のことを思い出した。
だが、そんなまさかなと振り払う。
「それで…まさか封印を解いてこいって言うのか?」
「それはしてはならん。
…最近、その場所に出入りする怪しげな者たちが居るのでな、ちと調査してきてほしいのじゃ」
「その怪しげな者はどうするんだよ?」
「その辺りはおぬしらに任せる」
「なんだそりゃ」
つまり依頼内容をまとめると…
依頼は、封印場所の調査。
出入りしている連中に対しては、撃破しようが捕縛しようがスルーしようが、こちらの判断次第。といっても場所が場所だけに、スルーという選択肢はあまりしない方が良いな。解かれれば厄介な事は目に見えている。
「それでは、これから向かうことにします」
「あ、少し待ちなさい」
内容が内容なだけにすぐさま行動に出ようとしたユーウィスとリーガルを老人が止めた。向かうにあたっての注意だとかを言い忘れていたらしいので、其れを聞いた後に外に出て、待っていたハクたちに軽い説明をした後、封印場所へと向かい始めた。
老人に聞いたことによると、封印は魔力が満ちていて普通には見つけられないという森の奥にある遺跡にあるらしく、その森はこの村から北西辺りに存在し、獣の本能並みの感知能力があれば見つけられるという。
「…無茶ぶりじゃね。獣の本能なんてさ」
「どうだろうな。あの人はユニコーンを見てるから見つけられると踏んだのかもしれない。それに魔力が満ちた場所っていうなら感じ取れないわけじゃない」
現に、自分たちには気付けなかった、周囲にまき散らされた光柱の余波魔力を感じ取っていた。
「それに、本能云々なら、動物が逃げてきた場所っていう考え方も出来るからね」
「見つける分には然程苦労しないだろう」
捜索に関しては色々と方法があるから苦労はしない。苦労するとしたら恐らくその後のことだろう。
「てかさ…気のせいかもしれないんだが…この方角って例の光の方じゃないか…?」
「気のせいじゃないぞ。恐らくあの光は封印場所から出たんだろうな。
最悪の場合は封印されていた奴と出くわすことになるかもしれない」
「はぁ…今回ばかりは貧乏くじじゃないか?」
「そうか?ある人はこんなことを言っていた『危険を冒して前へ進もうとしない人、未知の世界を旅しようとしない人には、人生は、ごくわずかな景色しか見せてくれないんだよ。』とな。意外と収穫があるかも知れないぞ?」
また別の人はこんなことを言った。
『明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ。』と。
折角こんな世界に居るんだ。向こうではありえなかったことを学ばなければ損だ。
「お前、変なとこポジティブだよな…。
これから向かう場所は確かに貴重な体験が出来そうだが、下手に首を突っ込んじゃいけねえ場所でもあるんだぞ…っても無駄か。お前はいつも突っ込んでるようなもんか」
失礼な。
『話しているところすまないが、近いようだ』
ユニコーンに言われ、周囲の確認に戻る。
戻ってはみたが、周囲にはそれらしい場所は何もなかったが、その代わりなのか、時折景色がぼやけ、魔力の影響を受けているか、認識に軽く靄がかかっているような気がする場所はあった。
「認識阻害か?…皆、景色の認識はどんな感じだ?」
「認識?…いや、特に何とも。気のせいじゃないか?」
「いや、確かに阻害を受けてるのか変な感じはするよ?」
『魔力を頼りに来たのだから近いのは確かだ』
「…霧がかかってる」
皆が曖昧な証言をする中、ハクだけがはっきりとした証言をした。
「霧?」
「うん」
霧なんてどこにも出てはいない。リーガルなんて何も感じ取ってはいない。
ユニコーンは探知タイプというわけではないから正確な位置を判別できないである。
ただ、ハクは使う使わないは兎も角、精神干渉だなんだな能力を今でも持っているので感受性も鋭いだろうから、見えたと言うのなら本当なのだろう。
ここは頼ってみよう。
「ハク、霧はどんな感じに出ている?」
「…この辺り一面。向こうが一番濃い」
「そうか。ユニコーン、向こうの方に向かってくれ。恐らく霧が濃いっていう方角が当たりだ」
『分かった』
荷車はハクが示した方角へと進みだす。
すると、前触れも無く景色はガラリと変わり、荷車は森の中に居た。
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