第39話 異世界説明

 騒ぎになりかけていたリーガルとハクを回収したとはいえ、どう見ても日本顔では無い上に格好が一風変わっている者が揃えば、何もして無くとも視線は誘導されるわけで、その視線から逃れるように、聞き耳も立てられない落ち着ける場所を探していると、一応は同行している幼馴染花音が自宅を提案した。現在は一人暮らしをしているらしく、確かに其処なら他の目には触れにくい。だけども…


「良いのか?」

「場所が必要なんでしょ?」


 此れには感謝しかない。


 そうして一行は案外近くにあった花音の自宅のあるアパートへとやって来て、その部屋へと向かった。セキュリティ面が少々心許ないが、それ故にチェックを受けたりしなくて出入りが可能で、一行はその部屋の前へと辿り着いた。そして花音が鍵を使って扉を開くとそそくさと中へと転がり込んだ。


「んでユーウィス、色々と訊かせろ」


 部屋へと上がって落ち着くやいなや、遠慮無く胡座をかくリーガルがユーウィスへと問いかけた。


「まず、此処は何処だよ?」

「此処は日本だ」

「日本って何処だよ、聞いたことねえぞ」

「お前からすれば異世界だ」


 ユーウィスは淡々と答える。

 この辺りの内容は予想出来た上に、疑う余地も無ければ、誤魔化す必要も無い確定情報だ。相手がすんなり理解出来るかは置いておくとして、あっさりと返す。


「異世界って…何でお前はそんなに冷静なんだよ。てかどうやって異世界に来たんだよ俺らは?」

「恐らくあの衝突で空間に歪みが出来たってとこなんだろう」


 異世界間の移動に関しては詳しいことは言えない。経験どころか魔術の歴史としても前例が無い事なのだから。


 考えられる事といえば、互いに桁外れの魔力を有した魔術の衝突が、空間にまで影響を及ぼしたという所だろう。魔術が空間に歪みを生む事に関しては未だに釈然としない所があるが、魔術によって空間が震えるような感覚には経験がある。以前に目撃した、ラスティア・ヴェルが発生させたと思われる光の柱だ。恐らく、此方の世界に飛ばされる直前に発せられた術も同じものだろう。それ故にその魔力と此方の魔力が合わさった事で震わす以上の現象を引き出した…のだと現段階では考えた。


「正直、元の世界に戻るとなれば、かなり難しい話になるだろうな」

「マジかよ…」


 その結論にリーガルは項垂れる。リーガルとしてはやはり理解の追いつかない此方の世界よりも元の世界の方が良いらしい。その気持ちは分からなくも無い。ユーウィスとしても未練がどうこうよりも元の鞘に収まった方が良いとは考えている。

 だけど、すぐに帰れると言う訳では無い。原因が原因なだけに移動の原理は把握できていない為、どうすればもう一度移動が出来るのか分からない。同じ事を繰り返してみようにも、必ず起こるとは限らない故に危険であり、その上、必要な要素が明らかに不足している。


「彼奴の魔力があれば、まだ可能性はあったんだが…今の状態だと、下手すれば二度と戻れない」

「彼奴?…ああ、魔術の王か。まさかこんな形で彼奴の力が欲しくなるとはな」


 力を欲した狂信者たちを止めたのに止めた自分たちが其れを欲するとは皮肉か、などとリーガルは言いながら困っている。自分たちの力だけではどうすることも出来ない。知識もだが、幾らか消耗している今なら尚更出来る事が少ない。とはいえ、消耗している事が逆に功を奏した事もあったが


「でも、お陰で助かったなリーガル」

「あ?」

「装備を失ってさ。鎧ならまだしも剣を所持したままだと今頃お前は拘束されてたぞ」

「はぁ!?なんで!?」


 その言葉にリーガルは驚いていた。

 まぁ驚くのも無理は無い。世界が違えば当然文化も違う。向こうの世界では害獣等の存在から護身の意味もあって武器を所持していても何の問題は無いのだが、此方では、銃刀法に始まり、向こうでは無かったような様々な法が存在する。それ故に其れを知らないリーガルたちが何かに引っかかっていないかと気になっていた。幸いにも武装が一連のゴタゴタの中で失われていた為、一先ずは警察の世話になる事は回避出来たが。


「法ねぇ……確かに其れは危ないとこだったが…」


 法の説明を幾つか受けたリーガルは其れに納得をしたような反応は見せているが、その表情は納得したとは思えないように何処か曇っている。そして、何処か引っかかっていると言わんばかりの視線をユーウィスへと向けていた。


「さっきから妙だとは思っていたが、なんでお前は此処についてそんなに知っているんだよ? 其れに言葉もだ。異世界ってんなら言葉が通じなくても納得だ、だが、なんでお前はさっきも普通に会話が出来てたんだよ」


 流石に訊いてくるだろうとは思っていた。


 だけど自分でも分からないのは、何故自分は会話が成立するのにリーガルたちは言葉が通じないのかである。そもそもユーウィスは言葉を使い分けている気は無く、普段と同じように言葉を発して会話を成立させただけなのだ。

 いや、もしかするとユーウィスが転生者故に知識がある影響なのかも知れない。本当は違う言葉を使っていたのかも知れないが、記憶にある懐かしい言語を耳にして、無意識のうちに切り替えていたのかも知れない。俺としては同じ感覚で使っている筈なんだが。


 言葉の謎は兎も角として、此処まで来たら流石に隠す意味も無いだろう。そもそも転生した事は、知らせる必要も無いが、隠す必要も無かったな。異世界の存在の証明にはなるが、関わろうとしなければどっちにしても関係は無いのだから。


「まぁ、言っておくか。俺は――」


 そうしてユーウィスは、リーガルとハクに少しばかり昔話を語り始めた。


 昔話といっても、ほんの死に際の経験の事だ。


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