第37話 異世界交差
「説明はする。だがその前に場所を移さないか?人目は無いだろうけど此処でする話でもない」
再会した、してしまった前世の幼馴染みが感情を高ぶらせながら説明を要求してきた事に対してユーウィスはそう返した。
流石にもう誤魔化す事はしない。巻き込んでしまう事になるのは仕方が無い。だから、考え方を変えよう。此れからの事を考えると事情を知る者が居た方が何かと良いだろう。勝手知ったる街だとしても今世では自分は明らかな余所者なのだから。
人目は無いだろうが場違い感のある墓地を抜けて二人は場所を移動した。だからといって相応しい場所があるわけでもなく、何処かの建物内に転がり込むのも遠慮した結果、歩行者専用の地下通路の真ん中で足を止めた。通路内の反響率は気になるが、時間帯の問題か此処を通る人は今の所は居ないようなので大丈夫だろう。何かの足音が聞こえればすぐに立ち去れば良いだろうと。
そして、ユーウィスは周りに気を付けながらも、向こうの世界での自分の身の上話を始めた。此方で死亡した後の事や、向こうでの生活、此方に来た経緯を分かる範囲で話した。
いきなり全てを話しても突拍子も無い気がして全体的に軽めに説明をしたが、どうやら受け入れられたようだ。そんな彼女は今は
「魔法のある世界かぁ…此れで何か出せるの?」
「其れは今はガラクタ同然だから動かんぞ。回路も壊れているだろうから弾も撃てない」
ガチャガチャと動かしていて形としては其処まで壊れていないようにも思えるが、試しに魔力弾を撃とうと魔力を込めてみても、回路自体が破損しているようで何時ものように魔力が集束される感じは無かった。恐らくシリンダーを差し込んでも同じだろう。玩具として誤魔化せられるのは良いが、何かがあった場合に役に立たないのは少々心許ない。
「さっきの話だけど、他にも暮人みたいに移動してきた人とか居るの?」
「どうだろうな。有り得なくも無いがまだ誰も見ていないからなぁ…」
あの現場にはユーウィス以外にも人は居た。範囲を絞らなければあの森には他にも十人程度は居た筈だ。もしかしたら把握していないところで森に入った者も居たかもしれない。
そしてユーウィスがあの時の衝突が原因で此方の世界に飛ばされたのなら、他にも此方に飛ばされていても不思議では無い。少なくともユーウィスの身体に触れていたハクとリーガルは飛ばされていても不思議では無い。そうなると気がかりなのはあの二人は此方の世界に対して何も知らないと言うことだ。面倒事になってなければいいが…。
あの二人とは別の意味で心配なのは、あのラスティア・ヴェルのその後だ。彼奴は引き寄せる。本人の意思がどうであろうと、その余りある力に目を付けた者を引き寄せ、争いを生む。まだあの怪しい連中が全員捕まった訳では無い中で放っておけば
「ところでだ。こっちも訊きたいんだが――」
此方の世界の事を話したのだから今度は此方の番だ。
正直気になっていた事が幾つかある。
「まず確認なんだが、こっちはあの日からどれくらいが経ったんだ?」
あの日と言うのは勿論事故の日だ。街を見て回った限りでは名残が有りながらも其れなりの時間の流れを感じた。向こうの世界で十数年過ごしたのだから当然だろう。だけどその割には幼馴染み自身の姿とは少し釣り合っていない気がした。
「あれから五年は経ったよ」
「…そうなのか?いや、そういうことか」
考えて見れば、二つの世界の時間の流れが同じであるという前提が間違っていた。そもそも世界という枠組みが違えばその中にある文明も技術も異なっているのだ。
時間も異なっていても不思議では無い。其れにその方が色々と納得である。
「それと…最近見た夢って奴だが、いつ頃から見始めたんだ?」
「最近も最近よ。一週間も経ってないと思う。」
「ふむ…」
やはり予知夢の原因は異世界間の移動による余波である可能性が高いか。異世界間の移動についての知識なんて有る訳もなく細かいことは分からないが、ほんの数日の影響のズレならまだ誤差の範囲だろう。
一応、夢以外にも妙な事が最近起こっていないかと確認したが、知っている範囲では特に変化は起こってはようだった。起こるより先にユーウィスが来ただけだろうか?取り敢えず気は配っておこう。
「ちなみに夢って具体的にはどんなものだったんだ?」
「あの夢ね…。そうね…一度も見たことも会った事も無い筈の特徴的な姿をした子がはっきりと出てきた不思議な夢」
「どんな奴?」
「人間らしくなく、角とか尻尾とか、翼まで生えてた子」
「あー…」
次々と挙げられていく夢に現れた子の特徴にユーウィスは察した。そしてシリンダーを一つ取り出した。そのシリンダーだけは他のものとは違って中身が空となっている。『吸血姫ドラゴキュリア』のシリンダーだ。あの衝突の時には表に出ていた事でユーウィスとは別に飛ばされたようだ。まさか幼馴染みに接触しているとは思いもしなかったが。…そういえば彼奴は素材にした血液の関係で幾らか記憶を覗き見れたのだったか。他でもない幼馴染みに接触したのは偶然では無いのかもしれない。
「其れで、その子はどうなったんだ?」
「どうなったというか、今も寝たら出てくるぐらいかな?出てくるぐらいで特に害も無いみたい」
恐らくユーウィスよりも先に飛ばされたことで活動時間が限界に近付いても戻るにも戻れなかった為に、代わりとして取り憑く事で器にしたという事だろうか。そんな能力を持っているかは生み出した自分でも把握していないが、奴ならやりかねない。
「表には出ずに夢の中でだけ活動か…シリンダーを器に置き換えれば同じような仕組みか…」
「? …もしかして夢の中の子も関係者?」
「多分な」
多分どころかほぼ確定だろうが。
それにしても召喚獣が召喚者の手を離れて飛ばされているのなら、本当に他の者も飛ばされている可能性が出てきたな。もしかすると案外直ぐに次が――
「何かやけに騒がしいな」
「こっちから行くか」
通路の中にそんな会話が小さく響いていた。内容は聞き取り辛いが、誰かが通路に入ってきたことは明らかだった。
「そろそろ動くか」
通路に人が入り出した事を切っ掛けに、何時までも留まっているのもどうかと思い移動することにした。取り敢えず目下の目的は仲間探しだ。そう考えながら出口に近付いていく程に何やら外が騒がしくなってきた。
そして外に出ると、ユーウィスの耳に妙な情報が入った。
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