3章 転生者、故郷へ

第35話 異世界の異世界は見知った世界

「何がどうなっているんだ…」


 怪しげな行動をしていた狂信者たちを追って森林地帯へと足を踏み込んだユーウィス・メルテットハーモニス一行は、手分けして無事に狂信者たちを取り押さえる事に成功した。だが、その折りに狂信者たちによって封印が解かれたと思われる魔術の王、ラスティア・ヴェルと遭遇する。

 そして最終的には、主の手を離れたラスティア・ヴェルの大魔術に対抗するべく、最大戦力をぶつけたユーウィスだったが、気付いた時には風景が変わっていた。


「どうしてこの世界に居るんだ」


 ユーウィスは状況を理解出来ないでいた。

 其れもその筈だ。今ユーウィスが居る場所は紛れもなく前世の頃に居た国なのだ。ユーウィスは前世で死亡し、転生という形で此の世界から此れまでの世界へと移動した。だが今回ユーウィスは死んではいない。それどころか生き残った筈だ。其れなのに世界という壁を超えて此処に居る。あの状況で誰も移動系統の魔術を行使した訳でもないのに。


「いや、まだ本物と決まったわけじゃない。もしかしたら誰かの術中ということも…」


 言い訳のように自分を納得させようとするが、何度考えてもこの世界は本物だ。自分に何かしらの術が掛けられていないことは理解しているし、何なら魔力が回復しきっていない事を除けば正常そのものだ。

 其程に、何かしら理由を付けて納得する方が、目の前の状況をそのまま理解するよりも楽なのである。


 と、其処で自分が妙な視線を集めていることにユーウィスが気が付いた。

 皆関わらないように素通りして行っているが、確かに今のユーウィスは目立つだろう。変なリアクションをしていただろう事は横に置いても、まず外見が他と異なっている。服装はユーウィスの個性もあってまだ此方の世界の服飾に近いとはいえ、素材なども異なる上、そもそも異世界での人種はこの国の人種とは確実に違うので浮いてしまうのだ。いっそのことコスプレ好きの外国人と言って誤魔化そうか?


 兎も角、今は注目を浴びている事についてだ。

 道に迷う観光客とでも思われてるのかもしれないが、下手をすれば面倒な事になりかねないので一旦路地へと逃げる。人目のある場所では確認することも躊躇われてしまう。行動するにしてもまずは身嗜みだ。


「取り敢えずコートは脱ぐか。下はまだ其れっぽいし…シリンダーは出さなければ良いとして、喚装銃機ガンライザーは…っと、ああ、やっぱり厳しかったか…」


 確認の流れで自身の得物である武器兼召喚器具の"喚装銃機ガンライザー"を取り出した。ところが喚装銃機は森林地帯で受けたダメージと無理が祟ったのか一部が破損していた。先の事を考えると不幸ではあるが、ある意味壊れている方が今としては幸である気がする。

 というのも、此方の世界では所持しているだけで逮捕される銃刀法の事を思うと、壊れている方が玩具おもちゃと言い訳がし易い為である。元々喚装銃機は構造が銃器とは異なっているのでガラクタ感が増せば、其れこそ小道具と偽れる。


「さて、此れからどうするかだな」


 恐らく事故とはいえ、正直此方の世界に来られるとは一ミリも思っていなかったので、何をすれば良いのかも思い付かない。帰る方法を探すというのも前世の世界なだけあって変な感じだ。とはいえ最後は元鞘なんだろうけど。

 先の事は考えずに今は歩こう。此処にずっと居るのも怪しまれるからな。見た限りでは、幸いにもこの辺りは前世での地元だ(昔の事だけど)。大きく変わっていない限りはユーウィスの土地勘でも大丈夫だろう。


 そうしてユーウィスは記憶の中の土地勘を頼りに、路地の反対側から出て、人目を避けるように移動を開始した。

 行く当ても今は無いので、折角だから昔の我が家を確認がてら見に行きたい所だが、流石に行った所で気付かれる訳がないし、此方も気付かれたい訳ではないので止めておこう。


「おぉ、此処空き地だった筈だけど、コンビニになったんだな」


 目的の無いまま歩いているが其れでも割と新鮮な感じだ。

 地元である筈なのに、昔とは違う部分が随所にあって、確かな時間の流れを感じる。其れも一日や二日の話ではない。それもそうか。ユーウィスが彼方の世界に転生して十数年は経っているのだ、此方でもそれだけ時が流れていても不思議では無い。


「とはいえ見知った場所の方が格段に多いな」


 ユーウィスは其れこそ観光気分で街中を歩いていた。先程までは周りから奇異な目で見られる事も多かったが、ユーウィス自身が堂々と観光しているので、周りも少しは視線を向けても其処まで見続けられたりはしなくなった。挙動不審がかえって怪しまれるとはよく言うものだな。


「…っと、此処は…」


 歩き始めてそれなりの時間が経ったであろう時、ユーウィスは気付けば覚えのある場所の入り口の前で止まっていた。其処は墓地だった。其れも前世である高橋家の墓の存在する墓地。

 今世では関係ないのだが、折角だからとユーウィスは墓地の中へと入っていく。そして一つの墓の前で歩みを止めた。その墓石には高橋家と刻まれていた。


「自分で自分の墓参りとはまた変な感じだな…」


 高橋家の墓ならば当然自分も其処にいる筈だろう。だけどその魂はどういう訳か記憶と人格を保ったまま転生し、今こうして墓の前で手を合わせている。通常ならあり得ない出来事である。


「…『幸運の女神は、準備万端でいる人のもとにだけ訪れる』

…まさかその幸運の女神がこんな状況を生むとはな。思いもしなかった」


 墓参りを済ませ、ユーウィスは去ろうと方向転換をした。


 すると、その向いた先には一人の女性が立っていた。それだけなら軽く頭を下げて立ち去ろうと思ったが、何かあったかのようにその女性は此方を見たきり硬まっていた。


「今の言葉…」


 此れまでとは少し違った様子で凝視してくる女性にユーウィスも何かを思い見返した。そして確信は持てないが気付いた。


「花音…」



 少し成長してはいるが、その女性は昔の幼馴染みだ。



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