第17話 同行理由

一行を乗せた馬車もどきは街を出てゆっくりと平坦な道を進む。

荷車を引くユニコーンは本来ならもっと速度を出すことが出来、魔術を交えれば更に速度を出せるのだが、今回は縄で結んだ荷車であるので事故の事を考えてかなりゆっくりめの速度となっている。其れでも牛よりは速いが。


「で、道は分かるのか?」

「大丈夫だ。ご丁寧に手紙と一緒に地図も送られてきたからな。念のために一般で売ってるこの辺りの地図も買っておいた」


リーガルに問われてユーウィスは懐から二種類の地図を取り出した。一つは市販の地形地図、もう一つは依頼の際に添えられていた目的地を記した簡略的な地図である。どちらも少し足りない感じの地図ではあるが、二つを照らし合わせれば、充分なものになる。


「そうか、それなら安心だ」


そう言ってリーガルは市販の方の地図を取っては眺めている。まだ出発してあまり時間は経っていないので現在地はそんなに離れてはいないが、暇潰し的に眺めているのあろう。


「そういえば依頼の手紙とか聞いたけど、メルテットは今は何をしているの?」


此方も暇潰しの話題なのか、確認なのか、チセルがユーウィスにそんな話を振ってきた。別に隠すことでもないので一応言っておく。


「探偵紛いの仕事だ」

「何良いように言ってんだよ。怪しい何でも屋だろ?」

「何でも屋?」


まあ間違いでは無い。

人としてどうかと思うような内容なら兎も角、人捜しや製作、人材派遣のようなことまで出来る範囲で受け持っているつもりである。何でも屋と言われても当然だろう。


「ちなみに今回の依頼は招集みたいなものだ」

「言っちまえば、召喚師に召喚状が送られてきたようなもんだろ? 逆に呼び出されてどうすんだって」

「全然上手くないぞ」


リーガルはハハハと笑う。

此奴としては、適当言っているだけで別に攻めたりする気は無いのだろう。此方としても目的地までの時間潰しの雑談だから構わないが。


で、その当の目的地はと言うとまだまだ先である。安全第一の速度で進んでいるがこのペースでは到着は何時になるのか分からない。荷台が大丈夫そうならもう少しペースを上げてみようか。


「意外と安定しているしもう少し上げるか」


そう判断してユーウィスはユニコーンに指示を出す。其れにより、後部を確認しながらではあるが、少しずつ速度を上げていく。土地がらか思ったよりも安定している。

そんな調整をしているユーウィスを余所に、後ろでは雑談は続いていた。


「ところで、チセルの方は何をしているんだ? 街を出ようとしてたってことは何かあるんだろう?」

「私? 私は今は旅をしているの」

「ほぅ、そりゃまたなんで?」

「ま、自分探しって感じかな?」


そう言ってチセルは風景に目を向けた。

学生の時は、最終的な分野は違えどユーウィスと同じくチセルも魔術に関しての学習をしていて、自身も魔術を会得しているので、其れを活かす方向かと思われたが旅人とは。いや、護身術という考えもあるが。

旅人とはいえ、その内容は人助けやらボランティアに近いものであった。自分探しと言いながら色々とやっているようであった。


「確かに人の役に立とうとするならそういう選択もあるか」

「お前も似たようなものだろ。属すか属さないかの違いだ」

「ははっ、かもな……おっと」


なんやかんやと雑談をしている内に、進んでいる地形に変化があったようで、急にガタガタと走行時の振動が少し強くなった。


「少しペースを落とすか?」

「いや、良いんじゃねえかこのままで?」


振動は変わってもペースの変更は無く、荷車はそのままの速度で走って行く。


「其れで、旅の途中なら何処まで付いてくるんだ?」

「うーん、何処か良い村か街があったら其処で降りようかな?あぁ、此の荷車は返さなくても良いからね。ずっと持ち運ぶのは邪魔になるから」


一応降りる予定はあったらしい。と言うことはこうして一緒に旅をするのは其処までになる。別に成り行きで進んでいるだけなので其処まで惜しくはない。

其れとは別に荷車を返さなくても良くなったのは少し有り難かったりする。


それから一行が進むこと数分は過ぎただろう。

その間、ユーウィスが意味も無くハクをユニコーンに乗せてみたり、リーガルが自身の金属剣を手入れしていたり、突発的に怒った猪の襲撃イベントなども有りながらも、その歩みを止めずに走る。

そんな順調な道中で、ふと気付くとユニコーンから降ろしたハクの様子が少し違うことが気になった。此処に来て振動で気分を害したかとも思ったが、それにしては何か違う。

どうしたのかと声をかけようとすると、其れよりも先にリーガルが異変を感じ取った。


「おい、アレを見ろ!」

「…なんだアレは…?」


リーガルに釣られてその指差す方向を見てみるとユーウィスは言葉を失った。その彼方に先程までなかった筈の光の柱が前触れも無く現れていたのだ。

結構離れているであろう一行からも其れなりに見えているのだから、本体は随分と大きいのだろう。


雲を貫く光柱が空に波紋を生む。





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