第12話 リベンジ
ハクが連れ去られた。
その言葉をユーウィスは始め理解できなかった。
リーガルの話によると、デストラクターが落下した時にリーガルが戦っていた改造人間を下敷きにしたが、それによって生じた煙で視界が奪われてしまい、煙が晴れると同時に現れた改造人間がハクを連れ去ったということらしい。
何の為に?
攫った理由を考えるユーウィスはある言葉を思い出した。
「奴の言葉・・・」
「何だ、どうした?」
奴が去り際に言っていた目的というのはハクの捕獲のことなのか?
そうだったとして、理由は何だ? 実験台にするためだとしても、わざわざ渦中に居たハクを攫う必要はない。危険を冒さずに離れた場所で攫えばいいはずだ。
だが奴はそうせずに前線のハクを連れ去った。自分の姿を現してまで。
人質にするにしても誰でも捕らえてしまえば、騎士団ぐらいには効果がある筈。
そういえば、以前にも改造人間と対峙していた時もどういう訳か、戦っているユーウィスよりもその後ろのハクを優先して狙っていた事があった。隙を突いたように思えるが、今にして思えば其処までハクを狙う必要があったのか。
「――ス、おいユーウィス!」
考え込んでいたところにリーガルの声が呼び戻す。
「なんだ」
「なんか考え込んでるみたいだが、そんな事より何とか手掛かりを探す方が先じゃないか」
「今、その手掛かりを考えてるところなんだ…が…」
その時、ユーウィスは唐突に脱力感と眠気に襲われた。
倒れそうになるユーウィスをリーガルが支える。
「おい、急にどうした」
恐らく魔力の急激な消費が原因だろう。ユーウィスの魔力総量的には問題なかったのだが、奴のNo.7との戦いで召喚獣に予想以上の魔力を供給したことで、それが疲労となって身体に現れたようだ。
このタイミングで出てしまうとは。だが今は休んでいる訳にはいかない。
「悪い、大丈夫だ…」
「そう見えないんだが」
「それよりもこれからどうするかだ…一応探す方法には考えがある」
「なら、今すぐそれを」
「したとして…もし見つけたとしても向こうは罠を仕掛けてるかもしれない。それに今の状態だと勝てる可能性は低い」
「じゃあどうするんだ」
ユーウィスは考え、仕方が無いかとあることを決意する。
「…やっぱりアレに頼るしか…」
リスクはあるが今のユーウィスにはそれしか奴に勝つ方法がない。
そしてそれをリーガルに軽く説明しようとした時、不意に力が抜け、ユーウィスの意識は一度そこで途切れた。
次にユーウィスが目を覚ますと、其処は戦闘跡の残る路地ではなく、騎士団が用意した部屋のベットの上に寝かされていた。確認のために窓から外を見てみると、外から太陽の光が差し込んでいて、時刻はいつの間にか昼になっていた。単純に考えて半日は経っているという所か。
ユーウィスは記憶を呼び起こし、状況を理解した。
「そうか…結局倒れたのか。魔力の使い過ぎも気を付けないとな」
こうしては居られないとベットから起き上がろうとした時、部屋の扉が開いてリーガルが入ってきた。
リーガルはユーウィスが目覚めたことを確認すると少し驚いたような顔をした後、安心したような様子で口を開いた。
「やっと起きたか。調子はどうだ」
「まぁ、なんとかな。で、今の状況は」
「お前が倒れてから騎士団は、守れる状況であったにも関わらず子どもが誘拐されたということで、犯人の捜索と召喚獣の対策を血眼になって行っている」
そう言うリーガルも口調の割に少し冷静さに欠けているようだった。無理も無いだろう。攫われる際に一番近くに居たのはリーガルなのだから。
「…それについて、あのロワードは何か言っていたか?」
「あの隊長はお前が何かを掴んだと踏んで、お前が起き次第、作戦の指揮を任せると言っていた」
「俺が指揮だと…、何を考えているんだ」
「先の接触で、お前への疑いは殆ど無くなったからな。ってもそれでもお前を良く思ってない奴は居るんだが。
…にしても随分買われてるなあの隊長に」
ユーウィス自身、何故そこまで買われてるのかは分からない。
交流が深い訳でもなければ、試されたぐらいだ。
「で、作戦指揮官殿、これからどうするんですかい」
豪く畏まった、それでいてからかうようなノリでリーガルは聞いてきた。このような会話は普段からあったので、もうツッコみはしない。
「…そうだな。なら少し時間をくれ。俺が探し出すから、その間に騎士団は腕の立つ奴を数人集めておいてくれ」
「多くなくていいのか」
「少数精鋭ってことだ」
少数と答えはしたが、ユーウィスは自分一人でこの件を終わらせるつもりである。だというのに其れを言わずに指示を出した本当の理由は、ここからのことはあまり他者に知られたくはないということ。
これは一種の因縁。自分がやらねばならない筈だ。
その因縁へと向かうためにユーウィスは支度を整えてから部屋を出た。
騎士団と離れたユーウィスは高台に一人で居た。
他に誰も居ない場所で、サモンモードに切り替えた
いつもならこのまま召喚に移るが今回はまだ付け足す。
コートから新たに取り出した二つのシリンダーを本体下部の挿入口に差し込む。
これはユーウィスが普段行う召喚や即席の召喚とは違うもう一つの召喚。それは強化召喚。
作成済みの召喚獣に別の生体データを加え、本来持たない能力を付け足す方法。
複数の装填が完了した後、喚装銃機から空へと撃ち出された閃光が魔法陣を描く。色鮮やかな光を放つ魔法陣には普段はない要素が書き加えられていた。
そして其処から姿を現したゲノムホーネットもいつもとは異なる青い姿をしていた。
此れは、テレパシーを使い群れで行動するテレパスドルフィンのデータと、デジタルデータをプラスし、データ収集ではなく捜索を目的とした強化ゲノムホーネット、その名は――
「改式"シーカー"」
"探す者"の名を持っているが、その能力は未知を探し出すというより対象と同じ遺伝子を持つ仲間を見つけるというもの。
本来なら対象から得た情報をもとに捜索を始めるのだが、今回はそのようなものはない。だが、探すことはできる。
奴の使う召喚獣はユーウィスの召喚獣とは様々な点で異なる。だがその製造における理論は同種だろう。その考えからゲノムホーネット自身を素として奴の召喚獣を探し出す。奴が使っていた術は基本的な転移型、ということはどこかに生み出した召喚獣を格納しておく場所があると推測出来る。
捜索対象の条件に自身の一部を指定すると、強化ゲノムホーネットは早速その場所を特定するために街中に飛び散っていった。
その場に残されたユーウィスは喚装銃機の引き金をもう一度引く。すると、銃口から弾丸が放たれる代わりに光が放たれ、その光は空中に三つの枠を描く。その枠はゲノムホーネットから送られた情報を映し出すモニターという役割を持ち、形成して直ぐ、モニターに送られてきた街の地形情報とゲノムホーネットの位置情報が映し出された。
簡略化された電子的な地形図にゲノムホーネットの位置を示す三つの点が動き回る。点はバラバラな方向に動き回っている。だが、少しすると三つの点は揃ってある方角へと向かい始めた。
そして、そのまま進んだ後にある地点に到着すると揃って点の色が変わり、反応を示した。
「この場所は確か…」
記憶の中の地形と照らし合わせて考えると、反応を示した地点は街の端にある下水道の入り口だった。
ユーウィスはそれを知ると、ゲノムホーネットの一体に待機、残りの二体に捜索続行の指示を出し、モニターを消してから高台を後にした。
高台から下水道に向かう途中にユーウィスは騎士を数人連れたリーガルと出くわした。どうやら指示を扇ぐためにユーウィスを探していたらしく、此方からしても此処で会ったのは好都合なので、軽く状況を説明してからその場で指示を出す。
「本当にそこに犯人が居るのか」
「それはまだ分からない。だがその可能性はある。だから騎士団はもしもの事を考えて入口に待機しておいてくれ。街で被害が出る可能性も零ではないからな」
「お前はどうするんだ」
「俺は先に乗り込んでくる」
しれっと邪魔が入らないように手を打ちながら、ユーウィスは新たな召喚獣を召喚する。今回召喚されたのは角の生えた馬、御伽噺などで言うところのユニコーンに近しい存在だった。
『こうして呼び出されるのは久しいな、主よ』
「話は後だ。敵陣に乗り込むから背中に乗せてくれ」
このユニコーンは人語を話し、知能も高いので簡単な魔法なら扱うことが出来る召喚獣。とは言っても扱えるのは身体強化と効果範囲が狭く扱いづらい治癒術だけだが。其れでも身体強化と合わせて移動面にはかなり頼りになる馬である。
『また面倒事に首を突っ込んでいるようだな。…いいだろう、乗りたまえ』
ユーウィスはユニコーンの背中に跨り、リーガルたちを残して街中を駆けてゆく。
『そういうことなのか』
下水道の入り口に着くまでの間にユーウィスはこれまでの事を簡単に説明した。件の事を。その犯人の場所を探している事を。そして、自分がやらねばならないであろう事を。
「あぁ、だからこそ騎士団の配備が完了するまでに全てを終わらせておきたい」
街中を駆けること少々、一人と一頭は下水道の入り口に到着し、足を止めた。
その時、丁度ユーウィスの持つシリンダーの一つが光った。この光のパターンは…
『どうかしたか主よ』
「ビンゴってことか…。中の捜索に出していたゲノムホーネットが倒されたみたいだ」
そう言うとユーウィスはユニコーンの背から降りた。
『ここまででいいのか』
「あぁ。もう同時現界をする余裕もないからな」
『そうか。…主よ、必ずこの件を終わらせよ』
その言葉を残しユニコーンは光となってシリンダーに戻った。
分かってるさ、と呟きシリンダーをコートのポケットに入れるとユーウィスは下水道へと足を踏み入れた。
下水道の中は薄暗く、水路に流れ落ちる水の音が下水道中に響く。
そんな中に時折、不協和音が聞こえる。悲鳴のような高い音や、くちゃくちゃとなにかを喰らうような音。下水道に似つかない音の数々。
そんな音を頼りにユーウィスは足を進める。
下水道の中は、街の中に張り巡らされている為に入り組んでおり、素人が地図無しで入れば間違いなく迷うことだろう。
不協和音が聞こえる方向へと向かうユーウィスは異様な横道を見つけた。
その横道は他とは違って真新しく、水路も通っていない、明らかに後から作られたものだと分かり、不協和音もこの奥から聞こえる。
ユーウィスは迷い無く横道を進む。
するとその道の先に開けた場所に辿り着いた。明らかに下水道とは違うその場所には、多数の人が水槽や檻などに閉じ込められており、その中の大きな水槽の中にハクの姿もあった。
「ハク…!」
その時、ユーウィスの足下に向けて小さな火球が飛んできて、反射的に一歩後ろに下がる。
「やっぱりお前か、凡庸な召喚師」
声のした方向を見ると暗がりから男が姿を現した。
「しつこい奴は嫌われるぜ」
「こんなことをしてるお前には言われたくないな」
お互いに敵意が剥き出しの中、ユーウィスは喚装銃機を変形させる。
「お前を潰して、ハクは返してもらうぞ」
それを聞き、男は笑った。
「力の差を知ってそんなことを言うとは笑わせる。
それに何を言っているんだ。ハク?こいつのことか?
こいつはNo.3。俺が作った物の中で、初めて一から作り、唯一精神干渉能力を持った改造人間だ!」
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