第11話 召喚獣VS召喚獣

屋根の上で犯人らしきマントの男を捕捉したユーウィスは、相手を睨み付けたままガンモードの喚装銃機の銃口を向ける。


「アンタが首謀者か」


マントの男は答えない。だが、此方を認識しているのは確かだ。


「言い方を変えよう。アンタがあの改造人間の主か」


改造人間と言うワードを口にした途端、少しではあるが身体が反応した。やはり間違いないか。其処でマントの男はようやく口を開いた。


「ああそうだ。だがアレはもう破棄する。失敗作がどこまで使えるか試してはみたがあの程度では駄目だ」


マントの男の動機はユーウィスの予想とあながち間違いではなかったようだ。

だが、予想通りの発言だったのにユーウィスは怒りを覚え、喚装銃機を構える手に力が入る。


「お前は…改造され道具のように使われた挙げ句、捨てられるあの人たちの気持ちを考えたことがあるのか!」


ユーウィスの怒気の孕んだ言葉に対して男は嘲笑で返した。


「道具の気持ちを考える馬鹿が何処に居るんだ。道具は使ってこそ価値があるんだ」

「…そうか、どうやら根底から腐ってるみたいだな。なら…」


話しても無駄だと判断したユーウィスは喚装銃機をサモンモードに切り替える。

すると、男も戦闘の予感を感じ取ったようにマントの下から杖を露わにする。


「その狂った頭にキツい一撃を喰らわせてやる――!」


ユーウィスその言葉が合図となって、二人はお互いの正面に瞬時に魔法陣を展開する。ユーウィスの正面に現れた色鮮やか魔法陣から三体のゲノムホーネットが飛び出し、地面に描かれた赤い魔法陣から現れたのは――


「今迄とは違う…」


相手が呼び出したモノの姿は、全身の肌は黒く、手足の爪は鋭く、背中からは大きな翼を生やしていた。今迄の歪な改造人間とは明らかに違う安定性。人の面影を残しているがその姿は正真正銘の悪魔だった。


「ほぅ、お前も召喚師か。面白い、少し遊んでやるよ」


ユーウィスの魔法を見た男は同業であると即座に理解し、試すかのように尊大な態度でそう言った。

キギャァァァァァァァァ!!

登場と共に空間が歪むような悪魔の咆哮が街に響き渡る。

その咆哮は只の叫び声ではないようで一種の魔力攻撃に近く、影響は下にも与えられたようで、配置している騎士たちの中には、動きを止める者、気絶している者が居た。そして影響が出ているのは騎士たちだけではなかった。下でリーガルが戦っている改造人間も苦しんでおり、一番近くに居るユーウィスの召喚獣も揃って動きを止めている。

動きが止まって的のようになってしまっているその隙を逃す筈もなく、咆哮から瞬時に行動へと移り距離を詰めた悪魔は、ゲノムホーネットの一体を鷲掴みにし、そのまま力任せに握り潰され、光へと消えていく。


「速いっ」


影響から脱した残りの二体は捕獲に注意して攪乱するように宙を飛び交うが、悪魔は乱されることなく、それどころかゲノムホーネットの先を行くスピードを見せ、次々と召喚獣を破壊していく。破壊され光の塵になったゲノムホーネットはユーウィスのシリンダーに戻っていくので死ぬことは無いが、まさか此処までとは。


「どうした?その程度で俺のNo.7を止められると思ったのか」


攻撃力も速度も今迄とは確実にレベルが違った。

どうやらあれが奴の本来の実力のようだ。

喚装銃機の魔力弾で対抗しながら、ユーウィスは対抗策を考える。

ユーウィスが現在持っている召喚獣は計四つ。その内一体は倒され、二体は屋根の上というこの状況では力を発揮し切れず、残りの一体に至っては扱いきれるかどうかが分からない。

どうすべきか焦っていると、其処の場に横槍が入ってきた。下から火球やら矢が飛んできたのだ。どうやら下で復帰した騎士たちの文字通りの援護射撃のようだ。だがその援護も飛べる相手にはあまり効果はなく、悪魔は翼で軽々と全てを弾く。


「邪魔だ。てめぇらはこれとでも遊んでろ」


男が杖を振るうと、街のあちこちに魔法陣が複数現れ、其処から改造人間が召喚されていく。数は其程多くなく、安定性も目の前の悪魔と比べれば低そうとはいえ、現れた改造人間たちは誰彼構わず周囲に襲い掛かり始める。


援護していた騎士たちも続々とそちらと交戦状態に入り、其れにより援護射撃が止んだ。


「足止めぐらいには使えるだろう…さて、どうする奇妙な召喚師、もう終わりか」

「…悩んでる場合じゃないな」


ユーウィスはコートから新たにシリンダーを取り出し喚装銃機に差し込む。


「来い!デストラクター!」


呼び声と共に引き金を引いて新たな魔法陣が展開される。

その魔法陣から姿を現したのは以前ジャイアントベアーのデータを素材として作り出した武人。ズシンと登場とするやいなや、屋根の上で存在感を放つ武人の雄叫びが空気を揺るがす。


雄叫びに反応し、悪魔は手の平から火球を生み出してデストラクターへと放つ。

デストラクターは防御態勢をとり火球を受け止める。悪魔は火球を放ち続けた。

火球の嵐が止むと、デストラクターの身体には傷どころか火傷一つなく立ち続けている。


「ほぅ…」


悪魔の火球が止んだ後、今度はこちらの番と、デストラクターは四つの腕を使って殴りかかる。怪力を誇る腕での攻撃だが、その攻撃はスピードのある悪魔に悉く躱されてしまう。それどころか、攻め手に回ったことで自分の置かれている状況を悪くした。


「No.7の力に対抗する為にパワーのある奴を出したつもりらしいが…下策だったな」


男の言う通りだ。パワー勝負に持ち込めばこちらのデストラクターに分があるかもしれない。だがそれは

相手の悪魔が飛行能力を持っているのに対して、こちらは力はあるが身体が重いために移動能力に対しては鈍く、それに加えて足場は不安定で脆い屋根の上という。

少しでも暴れれば自重で足場が壊れてしまうことはユーウィスにも分かっていた。

その予想通り、デストラクターが動き回ったことでその重みで屋根の至る所から小さな音が聞こえ、終いには零れ始めている。

その零れゆく屋根に足が取られ隙が生じてしまい、デストラクターの体勢が揺らめく。相手がそんな隙を逃すわけはなく、悪魔が先程よりも大きな火球を生成し、デストラクターの身体に叩き込む。其れでトドメを刺されるという事は無いが、その衝撃によって屋根の上から地に落とされる。


デストラクターが路地に落とされたことで、その衝撃で下に配備していた騎士を巻き込む形で道を破壊する。重みが有った分、落下により生じた土煙で下の様子が見えなくなってしまった。

その土煙から声が聞こえる。


「おいユーウィス!何落としてくれてんだ!お陰で何も見えねぇぞ!」

「すまん!けどこっちもやり辛いんだよ!」


そんな軽い口喧嘩を見て男は嘲笑を零す。


「不利な割に随分と余裕そうじゃねぇか」

「…そう見えるか」


余裕そうに思われても、状況は変わらず悪い。

奴を倒すには、まずあの悪魔をどうにかしなければ下手に攻撃は通らないだろう。

とはいえ、あの悪魔を倒すにしてもまずは飛行能力をどうにかするか、足場を何とかしなければならない。

供給している術者の魔力切れを待つという案もあるが、今のところその兆しはない。それどころか先に此方が尽きる恐れがある。

やはりアレを使うしかないのか…

そんな考えを察したのか察してないのか、男はユーウィスの様子を見てから言った。


「飽きた」

「…は」

「これ以上やってもお前は俺を倒せない」

「随分なことを言ってくれるな」


確かに相手に言われずともこのままでは勝算が無いことは自覚している。だけど勝算がなくともこのまま此奴を放っておく訳にはいかない。


そんなユーウィスの言葉を聞いているのか分からない様子で男は軽く杖を振った。

すると対峙していた悪魔の下に魔法陣が現れて大人しくなったと思ったら、悪魔は煙となってゆっくりとその姿を消していった。

悪魔が消えたのを見届けると男は背を向けた。


「待て!」

「なんだよ、は達した。もうお前らに用はない」


そう言い残し、男は屋根から飛び降りた。

ユーウィスは其れでも男を追おうと屋根の下を見下ろしたが、男の姿は既に何処にもおらず、気配すら感じなくなっていた。

気付けば、男が消えた影響なのか、街中で騎士たちと戦っていた改造人間たちも一体残らず姿を消していた。完全に去ったのか。


「奴が最後に言っていた目的とは何だ…?」


元凶が去ったことで、街には普段通りの夜の静けさが戻りつつあった。だが完全に戻った訳では無く、戦闘の後遺症が幾つか残されている。

ユーウィスはデストラクターをシリンダーに戻し、地面に降りた。

降りてきたユーウィスの姿を見て戦闘を終えたリーガルが近づいて来る。


「悪い、犯人を取り逃」

「すまんユーウィス、ハクが連れ去られた」


犯人について言おうとしたユーウィスの言葉は、リーガルのその言葉に掻き消された。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る