第10話 スクランブル

ユーウィスに用意された部屋は思いのほか快適だった。


広さはハーモニス事務所より少し広く、それでいて塵が無い上、きちんと整理整頓されている為に余計に広く感じられる。ベットは大きくふかふかで誰かが度々直してるのか皺が一つもない。生憎と風呂はないが代わりにシャワールームが付いており、それでも全体を通していい部屋には違いない。今迄会った騎士団のイメージから考えると、この部屋は所謂VIPルームといったところだろう。本当のVIPルームの度合いを経験が無いので知らないが。

そんな分析結果を出しているとベットの布団が独りでに動く。布団を少し捲るとそこには、ロワードの言っていたように保護されていたらしいハクが何故か其処に眠っていた。起こさないようにもう一度布団を被せた後、ユーウィスは念のために部屋に何か仕掛けられていないかを確かめ、無いことを確認してから、返してもらった道具一式の点検を一通り済ませてから休むことにした。…質が良いからか、この状況であるにも関わらず、ここ最近では一番眠れたかもしれない。


次の日、朝食は出ないので丁度持っていた携帯食の菓子を、起きたハクと分けて食した後、改めて喚装銃機の手入れをしていると、部屋に一人の男が訪ねてきた。

その男は騎士の一人で、その男に一つ説明された。なんでも、あのロワードは兎も角、騎士団自体はユーウィスのことをまだ容疑の件もあって信頼していないらしく、ここに居る間は建前上その男の監視・案内の下、行動しなければいけないらしい。下手な動きをしないようにというのは分かるが、俺は罪人か。まだ冤罪だ。


「ついてこい」


男に連れられてユーウィスとハクは、尋問に使われた部屋とはまた違った大きな部屋へと移動した。その部屋の中は中央に大きくて長い机があり、それを囲むように椅子が配置されてる。ある意味会議室のような部屋なのだろう。奥にはホワイトボードもあるが今回は使わないであろう。

部屋の椅子には各扉から次々とやってきた騎士たちが座って埋まっていき、その奥の椅子にはあの男の姿もあった。


「来たか」


その男――ロワード・ハルバートは堂々とこちらを見ている。

ユーウィスとハクは待たせているような感じがしたので周りに倣って手前の椅子に座った。二人が座ってから程なくして、全ての椅子が埋まったのを確認したロワードは話し始めた。


「早速だが、皆に集まってもらったのは他でもない。例の襲撃事件についてだ」


想定通りの話題を切り出すロワードだが、それに対してやはりと言うべきか、他の騎士たちが言葉を発し始めた。


「それはあいつの仕業でしょう!」

「そいつを捕まえればもう襲撃は起きないでしょう!」

「第一、なんでそいつがこの場に居るんですか!」


ユーウィスを差しながら騎士たちは次々と不満などを口にする。団員全体まで情報が回っていないから仕方が無いとはいえ、此れでは話が進まない。


「静まれ!」


流石に同じ事を思ったのか発せられたロワードの一喝により、先程の騎士たちを含めた場が静まり返る。文句は話を聞いてからにしろと言われたかのように。そして改めて話し始める。


「それも含めて今から説明する。その男は今回の事件における重要参考人であり共闘相手だ。ユーウィス・メルテットハーモニス、君の見解を」


ロワードに促されユーウィスが立ち上がる。すると、全ての視線がユーウィスに集まる。その視線には色んなものが混じっているが、この状況で邪魔しようというものは無い。


「…昨日俺たちは襲撃犯が女性を襲う現場に出会った。俺はその女性をなんとか逃がしその犯人の姿を見た。その犯人は人の形はしていたが人とは違うものだった。そいつは身体の半身が鬼のようになった改造人間だった」


そう言うと、改造人間だと!、悪魔の所業だ、などと場がざわついた。

そんな周りを無視してユーウィスは話を続けた。


「俺はそいつと戦った。相手はどこか様子がおかしく、あまり襲ってはこなかった。だが、そいつに気を取られていると、後ろに魔法陣が現れて新たな改造人間が召喚された。俺は黒幕である術者を探したがその場にはいなかった。そして戦っているとそいつらは突然何かを察したように撤退して行った。それからはアンタが見た通りだ」


周りは何か言いたげだったが誰も言葉に出さない。

ユーウィスはまだ話を続ける。


「さて、ここからは同業である俺の見解だ。恐らく犯人はもう一度来る。あの改造人間を見るにあれは不完全であり、どこまで出来るかの実験で出してきたと予想される。」

「何故そんなことが言える」

「犯行は全て人目を避けて行われている。そこには隠そうという意図さえ感じられる。…そして俺の予想だと犯人は…この街を実験場にしている可能性がある」


この発言にはロワードでさえ動揺した。


「実験場だとッ!?」

「そんな馬鹿げたことをッ!?」


確かに信じられないことだ。だがその可能性は十分にある。


「この街は意外と人目の少なくなる場所が点在している。

だから奴はもう一度来る。だからこそ次は罠を張ろうと思う」


ユーウィスは騎士団相手に自分が考えた作戦を説明し始めた。






そしてその夜。作戦は決行された。

狙ったように賑わいが鳴りを潜め闇に覆われた街を子連れの男が歩いている。賑わいが少ないとはいえ街には騎士たちが静かに巡回しているからかピリついた空気が流れており、その男たちはそれを避けるように路地へと入っていく。

その男たちはそのまま人から逃げるように徐々に人気のない奥へと進んでいく。すると男たちは行き止まりに突き当たった。

男は少し悩んだ。引き返そうかとでも考えているのだろう。だが、その背後に突如音も無く魔法陣が展開され異形の姿の半人が現れる。

男たちは気付いていないようでその場から動くことはなく、後ろから半人が迫り寄る。

半人の爪が男の身体を引き裂こうとしたその瞬間、目にも止まらぬ速さで振るわれた男性の裏拳が改造人間の顔に命中し、改造人間は吹き飛ばされる。


「悪いな、剣が無くてもある程度は戦えるんだよ」


吹き飛んだ改造人間を見据えながらリーガルがそう言った。



話は朝に戻る。


「本当にこんな見え見えの罠にかかるのか?」

「かからないだろうな、余程の馬鹿でないと。だが恐らくかかるだろう。相手の召喚術は恐らく一定の範囲内であらば遠隔で呼び出すことができる為、奇襲性がある。だからこそこういう罠があっても問題なく実行できるはずだ」

「いや、そうじゃないんだが…まぁ遠隔相手なら投げるだけ投げる可能性はあるか」


作戦はこうだ。

まず騎士たちを二人一組もしくは三人一組のグループを作り、街に一定間隔ごとに配置する。

そして、その配置と巡回ルートにわざと穴を作っておき、その穴に一般人のフリをした囮を一人立たせる。その囮の近くには予め術者を探す役を隠れさせておき、交戦に入れば術者の捜索を開始する。

探す役にはユーウィス自らが務め、囮役にはユーウィスの指名でリーガル(と何故かハク)が務めることとなった。

そして現在、都合良く事が進み、リーガルは半人に裏拳を決めて、愚痴を零していた。


「ったく、これはまた面倒そうな役回りだな。だがまぁ…引き受けたからには最後までやるか。だから早めに見つけろよ大将。…おいアンタ!暇なら少しの間俺が遊んでやるよ!」


リーガルは拳を構え半人に向き合った。


その頃、リーガルたちが居る路地の隣の路地の捨てられていた廃材に隠れていたユーウィスはとある魔力の気配を察して姿を現した。

その気配は近くなことは分かるが場所までは分からずユーウィスはとりあえず屋根に上がってから特定しようと魔力を足に集めるようにイメージした。身体強化魔法の一種、跳躍強化が発動する。足が淡い光を帯びる。そしてユーウィスは天高く跳び上がり屋根に着地する。

すると少し離れた屋根の上には思わぬ先客がいることを確認し、瞬時に其処まで飛び移った。

先客はマントで顔を隠していたが、その纏う雰囲気からして騒ぎを聞き付けた野次馬ではないことは一目で分かった。


「もう少しかかると思ってたんだが、まさかこうもあっさり見つかる場所に居るとはな」

「……」


ユーウィスと犯人、二人の召喚師が屋根の上で対峙する。


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