第9話 冤罪です
「やっぱりお前が犯人だろうが!」
なんやかんや有りまして。
騎士団が詰める建物の一室で尋問されるユーウィス。
状況を簡単に説明すると、あの後、戦闘の音を聞き付けてやってきた騎士団が現場を見て、案の定ユーウィスを現行犯として身柄を拘束。そしてそのまま自分たちの拠点まで連行し、喚装銃機を含めた諸々の道具を取り上げるとこの部屋に叩き込んだ。共に居たハクは子どもだった為か、共犯とはならず見逃されたらしい。実際、ついてきたとはいえ何もしていないからな。
「おい、聞いているのか」
時に、知っているだろうか。
こういう場所で出されるカツ丼は大体がこちらの自腹らしい。人によっては奢ってくれる場合もあるが。故に、机の上にはカツ丼も何も出てはいない。そもそも頼んではいないので有る訳無いのだが、そういうノリすらもこの世界では無さそうである。
「おい!」
「一応聞いてますよ」
「一応ってなんだ!?」
騒がしいので応えたというのに、尋問官が机を蹴飛ばさん勢いでツッコんできた。
「いい加減に認めろ、ネタは上がってるんだぞ」
その台詞本当に使うのか。
「状況証拠だけで決めつけるのはどうなんだ」
「決めつけるも何もお前以外に誰がいる!地面に付いた血、削られた壁と地面、そしてその場にお前。もうこれで決まりだろ!」
単調というか…頑固というか…。
決まりとは言うが、その根拠はかなり穴だらけである。
地面に付いた血とは言っても少し垂れたぐらいで出血した者は殺されたどころか先に逃げている。削られたにしても、ユーウィスの持っている手段ではあのような傷を付けるのは難しい。あと、あげ足を取るようだがあの場はユーウィスだけでは無い。この証拠では此れまでの闇討ちとは関連性が薄い筈である。
騎士団側のあまりの雑さ加減に、心の中でため息をつくユーウィス。
「騎士団はあいつらを実際に見たことがあるのか?」
「話を逸らすな。第一、あいつらとは何のことだ」
やはり騎士団は情報だけで、そもそもあの半人たちを実際には目撃していないらしい。道理で召喚術と見当は付けていても、それで呼び出される召喚獣に関しては何も言わない訳だ。ユーウィスの召喚獣も枠から外れているようなものだが、アレは更に特殊だ。一度見れば同じとは思わない筈だ。
尋問官とそんな進まないやり取りが続く中、部屋の扉が開き、見知った大柄の男が入ってくる。
「様子はどうだ」
「ロ、ロワード隊長!」
「…ロワード・ハルバートか」
突然部屋に入ってきたのは、装備が軽装になってはいるが、以前に騎士を率いて事務所に来たロワード・ハルバートだった。流石に隊長なだけあって登場には尋問官が驚いている。
「お前、隊長を呼び捨てに」
「別に良い。それより君は席を外しなさい」
ですが、と躊躇うような尋問官をロワードは言いくるめ、尋問官は退室していく。そして残されたのはロワードとユーウィスの二人だけ。
するとロワードはユーウィスの正面に座り、話を始める。
「すまんな。それでだ、情報交換をしようではないか」
早速とばかりに、情報交換と言った。
ロワードは話が分かる男だ。
この為に尋問官を外に出させたのだろう。此処には二人しかおらず、部屋や壁の造りから外部の視線も無いと見て良い。此れなら事情がある事も言えるぞと言うことか。いや、この間の約束があるからなのか。
この男自体に裏がある可能性もあるが、ユーウィスとしてもいい機会なので今回は提案に応じることにした。
「君は犯人の姿を見たのか」
「ああ、術と獣だけだけどな。そういうそちら側は襲撃犯の姿を見ていないようだな」
「恥ずかしながらそうだ。……君の目から見てどう思う」
どう思うとは同業として聞かれているのか。
ユーウィスは正直に対峙した感想を述べる。
「相手が使う術は間違いなく召喚術だろう、俺とは違うタイプの。それと召喚獣に関しては…もしかしたら…」
と、そこでユーウィスは言い淀む。
「どうした」
「いや、何でもない。召喚獣に関してだが…あれは普通じゃない」
「普通ではない…どういう意味だ」
あの召喚獣もどきの姿は此方のものとは当然異なっている。それどころか通常の生き物としても異なっていた。そして、様子から察するにアレは…
「…あれは恐らく改造人間だ」
「改造人間だと!?」
ロワードが勢いよく立ち上がるほど驚く。
当然だ。人体実験を意味しているのだから。
召喚獣を自ら生み出しているユーウィスが言えた立場ではないが、今回の犯人はかなり非人道的な実験を行っているようである。
「君たち召喚師はそんな非人道的なことも行っているのか」
ロワードは落ち着いて椅子に座り直したが、怒りは抑えきれていないようでどこか言葉に怒気を含んでいる。
「召喚師でもそういうことはしない。というか普通の召喚師はわざわざ生み出そうとしない。俺が特殊なだけだ。それで今回の犯人は人を使うという禁忌を犯している」
自身は兎も角、召喚師全体への誤解を解きつつ、そう答えるとロワードは少し落ち着きを取り戻した。
「…では、犯人に心当たりは」
「今のところはない。だが時が来れば分かるだろう……ある人は言っていた、『すべてをいますぐに知ろうとは無理なこと。雪が解ければ見えてくる。』ってな」
「それは分かるが、今はそんな暢気なことを言っている場合では」
「奴は恐らく次も出る。その時にでも後ろの奴ごと引っ張り出せばいい」
「罠を張ると言う事か…いいだろう。なら、それについてはまた明日話し合うとしよう。今日はこれでお開きだ。別室を用意してある。今日はここに泊まるといい。君の連れも其方で保護してある」
他と違ってロワード自身はユーウィスを正式に協力者としているようで、そう長く拘束しておくつもりは無いらしい。犯人の情報に最も近いからなのかも知れないが、どちらにしろ有り難いことだ。
話が終わり、ロワードは扉を開こうと手を掛ける。
「待て」
「まだ何か」
今にも出て行きそうなロワードを引き留める。
「とりあえず取り上げた物返せ」
ロワードのことだ。翌日からまた捜査は再開出来るだろう。
それにしても、考えれば考える程記憶の奥で引っかかるものがある。偶然と思いたいが、犯人が操る召喚獣は恐らく、ユーウィスの召喚獣と同じであって異なるもの…
ということは犯人はまさか…
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