第7話 容疑者ユーウィス

「大人しくしろ!ユーウィス・メルテットハーモニス!」


召喚獣を一体仕上げてから数日後のある日のこと。

ハクが怯えた様子を見せたあの日以降、様子はというと特に変わった様子も無く普段通りに戻っていた。普段通り過ぎて逆に反応が分かり辛いのが難点だが。…っと、ハクのことはさておき、そんな空気の室内に事務所の扉を勢いよく開け放たれる音と、怒号にも似た声が飛んできた。


声に反応したハクの興味なさげな視線を浴びながら事務所にドカドカと入ってきたのは騎士たちだ。その騎士たちは一人や二人では無いようであっという間にあまり広くない事務所が埋め尽くされた。

そんな相手方の態度とは違い、言われなくても大人しくうたた寝してたんですが、とムスッとするユーウィス。


「ぁ~……何の騒ぎだ?その様子とさっきの台詞から考えると面倒事なのは目に見えてるけども…」


欠伸を噛み殺しながらいやいや起き上がると、騎士たちは突然ユーウィスに刃を向けた。あまり広くないというのに数人が刃を向けるものだから危ないどころでは無い。


「ユーウィス・メルテットハーモニス!最重要容疑者として身柄を拘束する!」


今の言葉だけで大体理解出来た。案の定面倒事だった。

あまりに突拍子もない言い草な為に、ユーウィスは正直此れだけで馬鹿馬鹿しくなったのだが、そう言うだけの根拠があるのだろうと話だけは訊くことにした。もとい、様子見をすることにした。下手に動けば逆効果なのは目に見えている。


「容疑者とは何の冗談だ?」


あっけらかんとしたユーウィスの態度に騎士の一人が今にも暴れそうだった。だが、後ろから出て来た騎士がそれを止める。

その騎士は大柄でなかなかの貫禄のある顔をした男だった。その騎士の装備の質や周りの騎士の態度から察するに、相当階級の高い騎士なのだろう。


「君は最近、起こっている事件を知っているか?」

「事件?いや、生憎と世情にはあまり関心はないので」

「そうか。其れなら改めて教えよう。最近、街で闇討ちが行われているのだ」


闇討ちなんてほんとにあるんだな、と思うユーウィスをよそに話は続けられる。


「目撃者の証言によると、何もない所に突然化け物が現れ暴れたという。

この証言から犯人は珍しい召喚術を使ったと予測される。召喚術は扱える者が限られている」

「…俺が犯人だと言いたいのか?」


ハァ、とため息を吐く。


「それだけで判断するのは浅はかだろ」

「貴様! 隊長に何たる無礼を!」

「よせ」


暴れ出しそうだった騎士を再び止める隊長。

その人隊長だったのか。


「…確かに召喚術は色々と特殊で使える者は限られている。だからといって俺以外に使える奴がいないわけじゃない。使える奴が新しくこの街に来たってことも考えられるだろ」


召喚術は人によって細かいところが異なるが、大きく分けて二つ、共通した制約がある。

まず、契約。関係性。術者と従者の繋がりが強ければ強いほどその性能は強くなる。一番繋がりが強く、用いられるのは血。特殊な魔法陣の下、術者の血を従者となる側が取り込むことで繋がりは形成され、契約は完了する。

次に、召喚。呼び出し方にもいくつかある。ユーウィスのように別のものに変換されているものをその場で構築して呼び出す方法や、転移魔法で別の場所に存在する従者を術者の下に呼び寄せるものもある。

オマケに召喚術は一般の魔術とは違う魔力の運用法を必要とする為、他の魔法に比べ特異な面が強く、一般にはその資料は少なく、習得する術もあまり知られていない為、使える者も限られている。ユーウィスの周辺だけでもユーウィス以外にこの術を使える者は居ない。


「まぁ確かに君の言う通りではある。なら君はどうする?」


どうする、と挑戦的なことを隊長は言う。

隣の部下は明らかに犯人と決めつけて掛かっているというのに、この隊長はこんな状況で試しているのか?

それならとユーウィスは口を開く。


「冤罪かけられるのも迷惑だから俺が犯人を見つけるさ」


そう宣言すると相変わらず後ろに控えていた騎士たちが食いかかってきた。


「何をふざけたことを!お前がやったんだろ!」

「お前以外に犯人など居るか!」

「お前が犯人なんだろう!」


ドラマなどであるがそういう態度が誤認逮捕を引き起こし面目を失う素なんじゃないだろうか、とユーウィスは思ったが口には出さない。

適当に聞き流していると、隊長の口元が先程に比べ緩んでいることに気が付いた。


「……面白い。なら猶予をやろう。一…いや、二週間をやろう。その間に真犯人を見つけてみよ。君の言い分が正しいと判断された場合、我々は君への謝罪と協力をしよう」

「いや、謝罪も要らないし協力も必要ない」


どうせアンタの部下が大人しく協力するとも思えないし、何ならその短気さは返って邪魔になる。一々食い掛かられても処理が面倒だ。


そう言い返すと此方の意図でも読んだのか隊長はふん、と笑った。意外と愉快な人なのかもしれない。


「では我々は戻るとしよう」

「待て」


ユーウィスに背中を向け立ち去ろうとする隊長を止める。


「アンタの名は…?」

「…ロワード・ハルバートだ。ではな」


そう言い残してロワード・ハルバートは事務所から出て行き、食いかかってきた連中も隊長の指示に従って今日の所は大人しく帰って行った。

ああいうものをある意味、嵐のような出来事と言うのだろうか。オマケにきちんと傷跡まで残していきやがった。それもかなり面倒な跡が。


「随分厄介な案件だな…」


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