第6話 ユーウィス式召喚獣作成法
「そういえば、この間採取したやつ忘れてたな……」
ある日、昼食を済ませた後、客寄せハクの効力も大分落ち着き今日も今日とて依頼が来る気配が無いことを良いことにゆったりと過ごしていたユーウィスが突然そんなことを言った。突然に発した為、客人用のソファーに座っていたハクがユーウィスの方を見ている。
ユーウィスはハクの視線など気にせずに、端に置きっぱなしになっている物の確認を始める。それは先日採取した物を保存してあるケースだった。
「まだ大丈夫そうだな。とはいえ早めにしないとな」
硬質化しているような物なら大丈夫だが、素材によっては劣化などで質が落ちて使い物にならなくなる場合がある。折角採取してきたのだからそうなる前に何かしらの形にしておきたい。
ユーウィスは椅子の隣に置いていた鞄に、以前ジャイアントベアーから採取した物や、いくつかの素材とシリンダーを詰めると、其れを持って扉まで歩いていく。
「ちょっと出かけてくる。事務所の中では何をしていても良いが、出かけるときは鍵を閉めて行けよ」
そう言って扉を開けたとき、いつの間にか近くに来ていたハクがユーウィスの服の袖を掴んでいた。そして無言の視線が注がれる。
「…一緒に来るのか?」
そう聞くとハクは静かに頷いた。
「…本当は知られるわけにはいかないんだが…まぁこの際いいか」
此れから向かおうとしている場所はリーガルにすら隠している場所なのだが、監視の意味で考えると連れない場合はハクから目を離すということになるので、後々のことも思うと知られていた方が動き易いかもしれない。
妥協して同行を許すと、ハクは掛けてあった帽子を被って戻ってきた。以前にバイト代で貰った物の一つだ。
そして二人は共に事務所を出た後、ユーウィスは戸締りをしてハクを連れてある場所へと向かった。
二人が向かったのは以前にハクを見つけた森とは違う場所の森の中だった。
ハイキングかというように小山のようになっている森の中を進み、その途中で剥き出しになっている大岩の前でユーウィスは止まった。
その大岩をユーウィスが触ると、岩に一瞬紋様のような光が帯びたかと思うとズズズ…と重々しくながらも人力ではない雰囲気で横に動き出した。すると、その下に隠された階段が現れた。その階段は下へと続いており、下りた先には一つの重厚な扉があった。
ユーウィスが懐から取り出した黄色の鍵を扉の鍵穴に差し込んで回すと、扉がロックが外れ、開けるようになった。
ユーウィスが扉の先に進んでいくのを見て、ハクも追うようにしてその部屋に入っていく。するとその扉の先にあったものは、ハクが見たことも無いような、それどころか、この世界では見ないような機械類が多数存在していて、まるで研究室のような部屋だった。
そんな部屋でユーウィスは機械類の中の一つの前を陣取っては電源を入れ、持ってきた鞄から素材を取り出して並べて、早速準備にかかる。
この部屋はユーウィスがとある出会いから偶然受け継ぎ、昔の知識があるユーウィスだからこそ扱える部屋。仮にリーガルや街の誰かが来たところで満足には扱えないだろう。
「このPC立ち上がるの遅いんだよなぁ……ハク、自由にしてていいけど、変に触るなよ」
そう言われ、ハクはその辺にあった物を椅子代わりにして座った。
ユーウィスは起動したPCを早速操作し始める。PCの操作に呼応するように隣にあった機械たちも次々に動き出し、動き出した機械の一つに持ってきた素材をセットする。
そしてまたPCの操作に戻ると、頭上に複数のデータモニターが展開されていく。
「生体データを読み込み―――解析、転換―――データ抽出―――転写―――」
ユーウィスはぶつぶつと呟きながら操作を進めていくと、展開されたモニターにも生物のシルエットや四角いシルエットにデータが送られているような絵が表示される。そして送る表示が無くなるとユーウィスは作業を一度止め、淡い光の宿ったシリンダーを取り出す。
「…さて、問題は何を組み合わせるかだな」
「……」
次の工程を考えながら視線を動かしてみると、宙を見るハクに気付いた。
「あー、この部屋はな、昔あった奴から知識と共に譲り受けたんだ。俺の召喚術もその知識を基に生み出したんだ…って聞いてないか」
話したところで此れと言って反応が無いので、昔話を切り上げて作業に戻るユーウィス。
「さて、ここからだな」
ユーウィスの作り方を簡単に説明すると、設定合計値が10になるように足していく足し算方式である。だが、ただ足せばいいというわけではなく、合わせるものには相性が少なからず存在する。例えば、怪力を持つ生物の生体データと魔術に富んだ生物の生体データは釣り合い辛い。つまり、あらゆる面で万能な獣を生み出すことはできないのだ。
だが、稀に意図せず破格の性能の獣が生まれることもないわけではないがそれはまた別の時に。また、合計値10はユーウィスが安全且つ最適だと判断した値であり、これを超えたり満たなかったりすると、召喚時に形状が保てなかったり、暴走する可能性が大きくなる。
だから、組み合わせる時は慎重にするべきなのだ。
「とりあえず、この間の奴を目指すか。ジャイアントベアーの剛力を五割と……こっちの早い奴は…相性が悪いか…じゃあこっちの奴とこれを組み合わせて、最後に赤を添えて…」
なんで最後の方は料理風なのかと、リーガルがこの場に居ればそうツッコんだことだろう。だけど此処にはツッコむ者は居ないので気にせずにユーウィスは組み合わせていく。
別モニターで組み合わせをデータ上でテストしつつ、使えそうな物を確認していく。ある程度選び終えると、それらの入ったシリンダーを別の機械に装填し読み込ませる。
ちなみにぶっちゃけると、ここからの作業は
機械が動き出し、モニターに先程選んだ複数のシリンダーのデータの詳細が映し出される。其処には先日のジャイアントベアーのデータも挙がっている。
数多の文字列、組み込まれる術式が絡み合い、それらのデータが此処で一つになる。そしてそのデータが新たに装填した空のシリンダーに集約され、中身が入った事を示すようにシリンダーの色が変化する。
「どんな感じになったか分からないが一応は完成だな」
色の変わったシリンダーを取り外し、操作を終了してPCなどの電源を落とす。組み合わせが完了したので次は試験運用である。とはいえ此処で出すわけにはいかないので、試験の為にハクを連れて外に出る。
開けた場所に来たユーウィスはサモンモードに切り替えた喚装銃機に早速先程のシリンダーを差し込み引き金を引く。ユーウィスの魔力を伴って撃ち出された閃光は、地面に色鮮やかな魔法陣を描く。そして召喚獣の姿が構築されていく。
その影は人型を成し、その身体は筋肉に覆われマッシブに、その腕は分かれ四本になり、獣に近かった以前に比べ獣人寄りの姿に出来上がった。
「ゥゥゥ―――」
現れた召喚獣は暴れたりする様子は無くユーウィスの方を向いて大人しくする。構築も安定しているようだ。召喚時以外にも構築にユーウィスの魔力が組み込まれているので術者も理解出来ているようだ。
「悪いけど名前はまた今度な」
大人しく待っている召喚獣に触れながらユーウィスはそう言った。生まれたからには名前を与えてやらねばならないのだが、生憎と思い付かないので先に性能確認に移ることにした。
それから数分、新たな召喚獣に指示を与えて各部の稼働具合を確認する。各腕は問題なく動き、即席の時に比べて動きにしなやかさも感じられる。大地を駆け、岩を砕き、運動力に確認する。
「あの時より安定性は格段に上がってるな……ん?」
召喚獣の運動力を見ていた為に気付くのが遅れたが、どういう訳か、先程まで静かに見ていたハクの様子がおかしいことに気付いた。何時からなのかは分からないが、もしかしたら召喚獣が動き回ったことに反応したのかもしれない。
「どうした?」
「…!」
声を掛けるとハクが少し距離をとった。
理由は分からなかったが、今迄何を考えているのか分からなかったハクの瞳に、この時は怯えがみえた。
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