-51話 少女の残したもの ※
この話にはクロスオーバー要素が存在します。
▽△の間の話が其れに当たりますので、飛ばしても貰っても結構です。初期案をそのまま採用した形なだけなので。
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彼女がこの世を去ってから数日が経った頃。
ユーウィスは親の仕事の都合で、別の街へと連れられていた。ユーウィスにとっては始めてでは無いが、別の場所が見られるのは良い経験だ。
親の仕事を少し見学した後、流石に重要な内容となると子どもにも見せられないようで、ユーウィスは少しの間だけ自由の時間が与えられる。一応子どもなので近くだけと条件は付けられるが、ユーウィスは気にしない。
ある意味此処からが本番であったりする。
「さて、行くか」
誰に対してでもなくそう呟くと、ユーウィスは注意を一切気にせずに街の外を目指して進み始めた。時間の事も考えて簡単な魔術で速力を底上げした上で。
此の街に来る途中に地図を見ていたのだが、どうやら今回来た街は都合が良いことに例の場所が近くにあるのだ。以前に執事から受け取って以降形見として持っている手帳。其処に記されている座標が。
折角近くまで来たのだからと、この機会に確認しておこうと思ったのだ。確認すれば言葉の意味が分かるそう信じて。
街を出た後のユーウィスは近くの小山のような森へと向かった。
この地形は単なる森のように思えて盛り上がっている為、傾斜が多く、ただ歩いているだけでも地味に足にくる。
手帳に記されていた場所は大雑把なもので、地形の事は書いていても正確な位置は記されていない為、此処からは自力で探さねばならないから面倒なものだ。とはいえ簡単に辿り着かれてはいけないからこそ、このような中途半端な案内なのだろう。仕方ない。
まぁ目印は一応あるようだから其れを探すか。
「結構歩いたな」
森の中だけあって視界は其処まで良くはない。その為、目印一つ探すのも一苦労である。身体強化魔法で少しでも効率を上げようとしてるとはいえ、こうも見辛いとなると、日が暮れてしまう。自由時間は其程長くないと言うのに。
そんなユーウィスの視線の先に少々開けた場所が見えた。
休憩するには丁度良いかとその場所を目指して進むと、其処には地表から剥き出しになったような大岩があった。
「もしや此れが目印か?」
手帳を確認してみれば確かに目印に当てはまる。
だけど問題は此処からだ。
目印は記されているが、その先は何も記されてはいないのだ。この大岩が目的地でもあるが、だからといって何か仕掛けがある様子もない。動かしてみようと押してみても動くはずも無く…
「とはいえ周りも森だしな…」
周りにそれらしいものがある様子もなく、やはり怪しいのは不自然に存在する大岩だろうか。
「…とりあえず殴ってみるか」
押してもびくともしなかったのだが、考えられる事はしようと、ユーウィスは攻撃をしてみることにした。殴ると言いつつ足に身体強化魔法を施して、思いっきり蹴りをしてみた。
「…まあ動くわけは無いわな」
此れで動いていたら苦労はしない。そもそも此れが当たりとも思っていないが。
だが、信じられない事に駄目元が当たった。
「…何だ?」
未だに岩に対して伸ばしたままの足から、大岩の表面に紋様のような光が伸びた。その光がある程度広がると、大岩から徐々に音が聞こえ始めた。
「今度は何だ?」
光が奔った大岩からズズズ…と重々しい音が鳴り始めたかと、先程までビクともしなかった大岩は独りでにスライド移動を始めた。大岩はゆっくりと一つ分ぐらいの距離を移動すると光は弱くなって止まり、大岩が動いた後の地面には隠された階段が存在した。
「これは…魔力を流すことで起動する仕掛けだったのか?」
自身の足に施したばかりの筈の身体強化魔法は既に消えている。本来ならまだ効力が残っている筈なのだが、大岩に吸収されたように効力が消えている。どういう形であれ岩に対して直接的に魔力を当てれば起動するようである。
さて、下へと続く階段が現れた訳だが、間違いなくこの先だな。
怪しくもあるが間違いなく目的の物があると直感的に察したユーウィスはその階段を下りていく。
今にもダンジョンにでも繋がっていそうな階段であり、警戒するべき状況だろうが、何かが仕掛けられている様子はない。人が通った痕跡はとあるものを除いては見当たらない。
「痕跡にしては其れなりに時間が経ってるみたいだな」
階段には一種類だけ足跡が残されていた。だが、その足跡は付いてから其れなりの時間を感じさせるだけでなく、同じ程度の逆向きの足跡もある事から直ぐに帰ったようにも思える。
帰ったのなら待ち受けているという事は無いな。
「っと、着いたか?」
階段の先には一つの重厚そうな扉があった。如何にもこの先に重要なものがあると言わんばかりのデザインの扉。その扉の鍵穴部分には黄色い鍵が差し込まれたままとなっている。
「どういうことだ?忘れ物…な訳無いな。」
流石に其れは間抜け過ぎる。
恐らく先程の足跡の主の仕業だろう。となれば此れは故意か?
よく見てみれば先程の足跡は此処から先に進んだ跡はなく、此処で方向を変えているようだ。つまり足跡の主は鍵を差しに来ただけという事になる。だが其れは、後からユーウィスが来る事を予測していた事になる。
「もしかしてあの人か?」
其れが出来るのはあの執事ぐらいだ。
大方渡し忘れたって事か。
ユーウィスは粗方の推測を付けると、其れについては其処までにして、扉に手を掛け……差し込んでいても鍵を解錠していなかったので鍵を回して、改めて扉に手を掛ける。
すると――――
▽
「っ!何だ!?」
扉を開くと同時に、目の前が突如として塗り変わった。
ページを捲ったかのように切り替わった景色は不思議な場所だった。
地下に潜った筈なのに平原のようなものが広がっており、地下の筈なのに潜った距離以上の高さの空も見える。
「何だこの場所は…?」
振り返ってみると、たった今自分が開いた筈の扉も通ってきた道も見当たらない。見えなくなっていると言う訳でも無さそうだ。
「あれは…」
此処がどういう場所なのかと周囲探していると、平原の中心に何かが居るのは見えた。怪しくはあったがユーウィスは此処が何処なのかを知るチャンスだと思い、其れに近付いていく。
「ごきげんよう。あなたは"迷い人"?」
「"迷い人"…?」
その少女はユーウィスの存在に気付くと、開口一番そう言った。
こんな所に居る少女も気になるが、少女が言った"迷い人"という言葉にも少々引っかかる。
「此処は何処でもない場所。此処に来る人は何かを迷っている人ばかり」
「…つまり、俺が何かを迷っているって事か?」
「其れは正直分からない。迷っているかもしれないし、ただ迷い込んだだけかも知れない」
「結果論だと、其れはどちらにしろ迷ってるな」
まあ考えてみれば心当たりが無い訳ではない。
此れから次第では俺は逃げる選択をするかも知れない。だけど、まだ彼女の言葉の意味を理解した訳ではない。だが、其れを本当に理解するべきなのかは分からない。
「まあ…正直分からない事はある。だけど俺は何かしらの答えを出すさ」
「そう…。今回は何も言うことはないのね」
自分は何故この場に迷い込んだのか、いや、ある意味此れは引き返す最後の機会だったのかも知れない。だけど俺は……
気付けば先程までの光景は消えており、景色は本来の形に戻っていた。
△
扉の先に存在した部屋には、この世界では有り得ない筈の景色が広がっていた。机や椅子は簡易的なものではあるが、その周辺に置かれている、この部屋で一番場所を取っているであろう其れが、ユーウィスにとっては何より驚きだった。
其れは、この文明ではまだ到達していない筈の機械類の数々だった。其れも、ユーウィスが知っているものとは形は違うがPCだと思われる物もあれば、知らない大掛かりな物も其処にはあった。
オマケに足下には配線が沢山だ。
「ん?」
配線に視線を向けていると、扉の直ぐ近くに何やら紙が落ちていた。良く見てみると其れは手紙だった。まだ真新しい。
「これは…」
その手紙を開いてみるとシンセサイズァーというタイトルが書かれていた。
「シンセサイズァーって確かあの家の…」
その手紙を読み進めていくと、この部屋の事が少しではあるが理解出来た気がした。そして、彼女が言った『罪』の事も。
成る程、だから罪を背負うか。
確かにこの遺産は存在してはいけない物だ。だけど此れは有効活用出来れば助けにもなるだろう。恐らく、彼女たちは後者に成ることを望んでいるのだろう。
「取扱注意ではあるが形見でもあるからな。」
折角信じて託してくれたのだ。背負ってやろうじゃないか。
…と、格好付けてはみたが、そろそろ戻らないと拙いと思い、ユーウィスは一度此処を出ることにした。しっかりと戸締まりをして鍵を貰いながら。
此れが、召喚師ユーウィス・メルテットハーモニスの始まりである。
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