背中(純文学)

野口マッハ剛(ごう)

今の僕の本気

 いつからこうなった。純粋に楽しめなくなったのは。言われたよ、「貴方って、そんな人だっけ」ってね。言い訳したいけど、そうすると聞きあきたCDのようだと言われそうで。だから、彼女の涙のわけは今になっても聞けずにいる。いや、もう会ってくれない。初めて知った。代えのきかないものは本当にあった、って。

 朝はどうやらまぶしすぎるみたいだ。なぜ。辛い時に右に彼女が居ないのは、ぽっかりと穴の空いた雲を眺めるようだ。帰って来てくれよ、君なしでは夢を追うことも出来ない。何が悪かったのか、涙が頬を伝っては落ちてゆく。今は辛い、愛されないから。

 背中にできものが出来たせいで痛い。今、もしも彼女が居たら、笑いながら話のネタになるのに。背中が、全身が、呼吸が、血を流すかのように痛い。違う、涙が頬をこれでもかと流れて、それが心を叩きのめすのだ。俺はなぜ生きているのだろう。ひとりぼっちのクリスマスのようにさみしさが高鳴る。

 もう、俺の中で彼女が死んだということにするのは、最初から無理があって、今さら俺は夢を追う資格を持っていなかった。涙がいつまでも止まらない。いつまでも君を想っていたい。俺の夢は彼女の応援がなければ叶えられそうにない。さよなら、もう終わったのだ。諦めようか。そうしようか。

 さよなら、君はあの男と笑顔で話していたのだ。それから、キスを君と男は軽く交わした。

 俺の背中が静かに震えたのを、今でも覚えている。

 だから、さよなら。

 俺は夢を見失った。

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背中(純文学) 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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