追跡
皇女一行は先を急いだ。
普通であれば週末は、一日先に進んだら一日は潜伏場所を探して、居住空間を作らなくてはいけない。一日歩いた後に、夜を徹して歩いているのには訳があった。
偵察部隊が戻ってこなければ、本隊も異変に気付くし、「偵察部隊がそこにいた」という事は、「本隊が近くにいる」という事である。
近くに敵が迫って来ていたとしてもそれは「皇女探索部隊」くらいの小規模の部隊を予測していたが、迫っている部隊が偵察部隊を出すほどの「分隊規模」であったのは予想外であった。
メイドや皇女など非戦闘員を含む6人が太刀打ち出来るはずもなく、ならば「三十六計逃げるに如かず」という訳だ。
「私思うんだけど」メイドは言った。
「私達って逃げてるのよね?コイツの武器、そう、その槍って長すぎて立てて歩いてる時、5キロ先からでも見えてるんじゃない?『ここにいるぞ!』って言いながら歩いてるみたいなもんじゃない?隠れてる意味なくない?コイツ置いて行かない?コイツ歩いてる時、姫様のお尻見てない?コイツ変態じゃない?」メイドは捲し立てるように言った。
「OK、OK!提案は大事だ。今は非常事態だしな、たとえ使用人であろうとも意見は言うべきだし、より良い選択肢の提案が出来るなら、その意見は採用されるべきだ。だけどな・・・途中から俺の人格を否定してないか!?知ってるか?男は同世代の女に『変態』とか『キモい』とか言われるのが一番傷つくんだぞ!しまいにゃ泣くぞ!」亮は半ベソをかきながら訴えた。
「まあ、半径5キロの敵を集める事が悪い事とは思わん。半径5キロ以内の敵を集めて少しずつ倒していく・・・ワシらにはそんな戦い方しか出来んしの、それにコヤツが英雄的な働きをすれば、槍を見ただけで、もしかしたら敵が逃げていくかもしらんぞ?それに槍を横に持ったら木々の間を歩けんじゃろ?」モルドレッドはそうメイドをたしなめた。
俺が「げー!呂布だと!?」とか「赤い〇星だ!逃げろー!」という存在になれるかどうかは別として・・・そうなのだ、長い槍を持って歩くのは立てて持っても歩きにくいのだ、まして横にして歩くのは不可能だし、殿(しんがり)を歩いている都合上、槍を横にすると皇女のケツに槍の先が突き刺さる。非戦闘員であるメイドと皇女を取り囲むような陣形を取っていて、殿(しんがり)を歩く亮の前を皇女とメイドは歩いている。背中に、というかケツに視線を感じるのはしょうがないのだ。
「でもコイツ、姫様のお尻を見てたんですよ?」メイドは納得出来なさそうにそうモルドレッドに言った。
「お、俺の国には汚い臭いケツを出してる太った連中を年に数回、夕方になると見る習慣がある、しかも15日連続でだ。」亮は誤解を解くために日本の話をする事にした。
「ろくでもないのはお前さんだけではなくて、お前さんの国自体がろくでもないのか!」モルドレッドが驚きながら何かを言っているが気にしない、今回誤解を解かなくてはならない対象はメイドだ。かまわず亮は話を続ける事にした。
「そいつらが押し倒したり、抱き合ったりしてるのを見て興奮したヤツらが、『俺の尻の匂いもかいでくれ!』といわんばかりに尻の下に敷いていた敷物を一斉に投げるんだ」
「子供には見せられない光景じゃな!まるで地獄のようじゃ!」モルドレッドは悪夢をみているように呻いた。
「だから汚くて臭いケツを見るのは慣れているし、何とも思わないんだ・・・わかったかな?」
どうだメイドよ、ぐうの音も出まい!何とか言ってみたらどうかね?
「私のお尻はそんなに臭くて汚いですか?」
蚊の鳴くような声で皇女ヘレナはそう聞いた。
「そんな事はございません。あなたのお尻はとても良い匂いでございます」
俺は何とかフォローしようとしたが、
「コイツ、姫様のお尻見てるだけじゃなくて、匂いまでかいでたんだ!うわっ!きしょっ!」メイドは悲鳴をあげるように叫んだ。
まずい、皇女がドン引きだ。メイドと皇女に汚物を見るような視線を向けられている。特殊な性癖がないと耐えられん。この雰囲気何とかせねば・・・。
何とかしなくては、と頭をフル回転させていた時に遠くから砂けむりが見えた。
敵の分隊に見つかってしまったのだ。
もはやこれまで・・・という時に「走れ!」と怒鳴ったのは殿(しんがり)の亮だった。
走った集団が吊り橋を渡り終えるのを見た亮は、吊り橋を切り落として分隊と対峙した。
向こう岸からメイドが叫んだ。
「アンタが吊り橋を渡った後、切り落とした方が良かったんじゃないの!?」
その叫びを俺は聞こえないフリをしながら叫び返した。
「ここは俺に任せて先を急げ!」
「逃げたわねー!今度会ったら覚えてなさいよー!」メイドは向こう岸で逃げながら、そう叫んだ。
「お互いに生きてたらな!」俺は崖を背に分隊と対峙しながらそう約束した。
しかし、その約束が果たされる事はなかった。
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