初陣
逃亡する時っていうのは
「追ってきた相手を完全にまくまで逃げる」か「追ってきた相手を全員を完全に殺す」のどちらからしい。
「どこにいるか探せ」って100手に分かれて探している人達が探す必要がなくなるのだから、「ここにいる」ってバレると、全員を相手にしなきゃいけない。
「相手に出来るなら最初から逃げてない」って話なので、見つからないように逃げなきゃいけないし、見つかったらどんな相手でも殺さなきゃいけない。
そこで問題が出てくる。
「お前、本当に人を殺せるの?」
という話である。
そう質問された時、亮は答えた。
Q.殺せる?
A.殺せるとも!
Q.女でも?
A.たぶん、殺せる
Q.美人でも?
A.殺せる、といいなあ
Q.美人が凄い好みだったら?
A.前向きに持ち帰って検討いたします
Q.凄い好みの女が自分にホレてたら?
A.善処しますが、恐らく無理だと思われます
Q.ブス女だったら?
A.殺せるともさ!
Q.ちょっとひどくない?
A.何がひどいかわからないし、俺ほどのフェミニストはいないと思う
インタビュアーであったメイドに一時的に毛虫のように嫌われた亮であったが、「人を殺す覚悟はある」と答えた事で、西に向かう集団の殿(しんがり)を任される事になった。
真っ直ぐ西の国に向かっている訳ではない。真っ直ぐ進めば、ルートが予測しやすくなってしまうし、山道は真っ直ぐ進む訳にはいかず迂回せねばならない場合が多いのだ。
「亮がいる週末の間に西の国に向かおう。隠れるのはウィークデーで良いじゃない」この方針に反対する人はいなかった。まだ海のものとも山のものともわからない亮だったが、それだけ人員も人材も足りないし、「動く」という事は「目立つ」という事なので、敵を撃退出来る自信がないなら潜伏した方がマシなのだが、潜伏していてもジリ貧でいつかは見つかってしまうので、どうせどこかで行動を起こさなければいけなかったのだ。
亮はビクビクとしていた。
覚悟は出来たとはいえ、人とは戦いたくないし、殺したくないし、それ以上に殺されたくはなかった。
「だだだだ大丈夫!まままま毎日ととととトレーニングしてきたんだから!」
そういやトレーニングしてレベル上がったんだろうか?
自分で見てみる事にした。
「9×1」
うん、相変わらず意味がわからない。
仮説が正しければレベル9って事になるね、でも「×1」って本当に意味ないよね、ただの表示バグなんだろうか?
そんな事を考えていた時の事である。
草むらの中に5つのライフゲージが見える。
一瞬ポカーンとしたが、次の瞬間大声を出した。
「ててててててててててててて敵襲!敵襲!」
相手からすれば「何でバレたかわからないが、バレたからには戦わなきゃしょうがない」といったところで、レベルは3~6と低く偵察を任務とした連中であり戦士ではなかった。
敵が亮に襲いかかってきた。
別に亮がルーキーだからではない、亮が殿だからである。
亮は槍を振り、敵を近づけないように・・・しなくてはいけなかったが、襲いかかってくる敵にビビって固まってしまった。
「ごめん!ごめん!ごめんって!わかった!わかった!わかったから!」
何がわかったのか、何であやまっているのかわからないが、無抵抗の亮を偵察部隊がナイフでチクチクと刺した。
「わかったっていってんじゃねーか!」
亮は意味不明の理解宣言と意味不明のキレ方をしたと同時に槍で5人の偵察隊員を薙ぎ払い、絶命させた。
不思議な事にナイフでの刺し傷は消えていた。「もしや」と思い、レベルを見てみると「9×4」案の定、右側の数字が増えている、しかも5人もの敵を倒した事で3も。わかった。右側の数字が異世界でのレベル、左側の数字が元の世界でのレベルなのだ。じゃあ「×」は何なのか?わからん!元の世界のレベルが何を意味しているのか、それもわからん!
わかっている事といえば、「レベルがあがった時、体力が全快して傷が治る事」
これってゲームではよくあるけど、異世界でもこれが適用されるとは思わなかった。
最初の敵が低レベルの偵察部隊で人数が少く、武器はナイフであった・・・1つ間違えば、最初に死んでいた可能性も低くはなかった。
ある意味ラッキーといえる状況から伝説は始まったのである。
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