最速の帰還
「帰る?どうして?」
皇女は首をかしげながら口にした。
「誰があなたの復帰を待ってるんですか?今、凌辱され蹂躙されているあなたが守れなかった民たちはあなたを恨んでいるのではなくて、あなたの復帰を喜ぶんですか?」
出来るだけ口調、顔色を変えずに言ったつもりだが、彼女の部下たちは怒鳴り散らした。
「姫様の御前で無礼であろう!」
それを聞かないように俺は続けた。
「あなたを命懸けで守ったら、俺に何のメリットがあるんですか?ある程度あなたの安全が確保されたら俺みたいな得体の知れないならずものが消される運命にあるのはお決まりですか?」
皇女は俺が言い終わる前に叫んだ。
「そんな事はいたしません!」
「あなたがする気がなくても、あなたの部下たちはそのつもりみたいですよ?ホラ、俺と目を合わせない。訳がわからんヤツが国内で幅をきかせるのは他のヤツからしたら面白くないですからね。俺からしたら『今、無礼討ちされる』のも『護衛しながら死ぬ』のも『護衛が成功した後消される』のも同じなんですがね。いや、散々苦労した後死ぬより、今死ぬのが一番楽なのかな?」
「わかりました。皇女の名の下に逃げ延びた後の、あなたの安全と地位を約束しましょう。それなら良いですか?」
皇女は部下達に目で合図しながらそう言った。
「いつまで皇女のつもりなんですか、その約束に一体何の意味があるって言うんですか。」
あきれながら言った俺に、彼女の近衛騎士だろうか、血の気の多そうな鎧騎士が叫んだ。
「この無礼者に守ってもらう必要がないじゃないですか!コイツには帰ってもらいましよょう!」
「だいたいあなたは本当に西の国に保護されるんですか?俺なら逃げ込んできた亡国の皇女を大国に差し出して、国の延命を懇願するけどなぁ」
「西の国は我々に対する協力する事の証として、私と皇太子の婚姻を申し出ています。」
「初恋の相手に婚約者がいた」というショックで、一瞬だけフラついたが、俺はまくしたてた。本音である「婚約者がいる女のために命をかけるなんて冗談じゃない」とは言わず
「どう考えても『同盟』じゃなくて『婚姻』が本命じゃないですか、婚姻で血縁関係になればデンブルグを統治する大義名分が手に入るし、それが『妻の悲願に手を貸した皇太子』という事になれば、デンブルグに攻めこんでも侵略は正当化される。姫様が生き残る以外、侵略者が統治しているのと何も変わらない、デンブルグの統治は二度と返ってこない。」と言った。
「わかっています。でも生き残らなければ、わずかな可能性すら潰えてしまう。私には一族の無念を晴らす責務があります。あなたに守ってもらうなど都合の良い事を言っているのでしょう。あなたが私を守りたくない、と言ってもそれはしょうがない事です」
皇女は下唇を噛みしめそう呟いたが、老人は往生際悪く喚いていた。
「召喚の魔法は三年に一度しか、使えないんじゃ!あと三年はコヤツに守ってもらうしかないんじゃ!って何でお前は召喚の魔方陣の上にいるんじゃ!?あっ!お願い!帰っちゃダメー!」
光に包まれると同時に、転送される前の場所に俺は立っていた。
俺は異世界から帰ってきた。世界最速の帰還じゃないかな?
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