無言ではない帰宅

家に戻ってきてベッドに横になり一息つく。

「惜しい事をしたかな?」

一目惚れだった。今までに見てきた女の子達がかすんで見えるくらい好みだった。

婚約者がいる、と聞かされて浮かれる気持ちは半減したが。

「彼氏がいる女のために命はかけられない」というのももちろんあった。確かに皇女に利用されるだけ利用されて捨てられるのは面白くはなかった。

しかし「無双の世界に行きたい」と言っていた亮が帰ってきたがったのには訳がある。

「俺のレベル低すぎだし、ライフバー短すぎだろ・・・」

異世界では頭の上にレベルの表示とライフバーと得意武器のイラストの表示を亮は見る事が出来た。といっても、その表示は亮にしか見えないのだが。

レベルの表示は「3×1」で意味がわからない。わからないが1はかけても同じなので、LEVEL-3という事だと思われる。

ちなみに皇女はLEVEL-5。つまり、皇女よりレベルが低い。おそらく「一般的な村人くらいの強さ」だろうか。

ライフバーは皇女を取り囲んでいる6人の中の一人、メイド服の侍女より少し短いくらい、鎧の騎士の1/3くらいの短さだ。

強い攻撃を受けたら一撃で死ぬんじゃないだろうか?

レベルは戦っているうちに上がるかもしれない。レベルが上がればライフバーも長くなるかもしれない、最大の理由はそれではないのだ。

最大の理由は亮の得意武器にある。

「俺の得意武器、槍かよ」

ライフバーの横に槍の絵が書いてあったのだ。

勘違いされている事が多いが、ゲームで槍と言われている物は槍ではない。棒の先に刃が付いているものを「長刀」またはただ単に「刀」という。これは西洋、東洋、日本、外国は関係なくそう呼ばれており、有名なのが関羽の「青龍偃月刀」であろう。

短槍や十字槍など短い槍もあるにはあるが、本来の槍は長い。

「槍の又左」前田利家の槍は約6.3m

「神槍 」李書文の六合大槍は、決まった槍を持っていなかったから多少の長短はあるが、約4m

趙雲の「涯角槍」は馬に乗って使っていたから、多少短いが約2.7m

張飛の「蛇矛」は約6m


槍は長くてどこまでも届くが、そのかわり細かい動きは出来ず、動きの基本は「振り回す」と「突っつく」だ。槍に細かい動きが出来て、常に心臓を狙えるとするとそれは恐怖であり、ゲイボルグはそれ故に魔槍と呼ばれているが、それが剣であれば「狙っている場所を教えてくれる優しい武器」になる。

槍を得物にしていた部将の武功は低い。趙雲は五虎将軍の中で最も武功は低く、李書文は神槍と呼ばれていたわりに、拳法の逸話はあれだけあるのに、槍の逸話はほとんどない。

それもそのはず、槍は敵を近づけないためにあるのであって、敵部将を撃ち取るためのものではない。一言で言えば地味なのだ。

槍で近づけないようにして、足止めした敵を弓が射つ。これが基本戦術である以上、武功は望めないが、逃亡戦での槍を使った部将の足止めの働きは伝説になっている。

劉備の子供を抱えた趙雲の働き、橋の上での張飛の働きなどが有名である。

つまり逃亡戦、総大将に敵を近づけないようにする戦いでこそ槍は真価を発揮する。

しかし、槍は脇役の武器である。

槍で「エクスカリバー!」と叫んで、沢山の敵をなぎ倒し、戦況を変える事はないのである。

「異世界まで行っても、俺は脇役なのか」

と落ち込んだ亮であったが、意を決したように立ち上がり宣言し、腕立て伏せをはじめた。

「身体を鍛えよう。異世界で勇者になれるように。異世界ですら脇役って事にならないように」





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