第7話魔女

再びこの世界に来て数時間、夜が来る。

モルテ高原を住みかとする、ガルバスが活発になる時間帯。

そんなことはどうでもいいと言わんばかりに睨み合うルミエル=アルン=ティナベルと、アンリシア=ティナベル。


「ん?」


「どうなさったんですか、神風様?」


「え、いやまぁ少し気になってな」


「何がですか?ガルバスが発生しないのは私が結界貼っているからですよ?」


「あ、そうだったの?魔法ってすごいね」


「はぁい!私の魔法は神にも値しますからァ!てかもう神も降せるくらい強いですよォ!」


「お、おおう、そうか、それは置いといてお前らふたり『ティナベル』って一緒なんだな」


問うた瞬間、ふたりの顔が強ばるのを感じた。

軽い空気が少しだけ重くなるのを、神風は感じた。

だが、そんな重い空気を一瞬で軽くするようにルミエルは答えた。


「そー、ですねぇ。この人は私の姉何ですよ♥」


大方予想はしてた。

けど目の色とか髪の色とか色々違う。

母さん父さんで違うのかもしれないけど……


「ふーん、そうなのか、似てないな」


「それもそうだろうな、ルミエルは拾い子だし」


カミング!アウト!

なんということでしょう、今まで姉妹だと思っていた姉妹は、本当の姉妹ではなかったのです。

姉妹だと思っていたルミエルの表情を、綺麗に破壊せしめた匠、ルミエルはどんな言葉を発するのでしょうか。


「あ、知ってますよ?」


なんということでしょう。義姉さんのカミングアウトは既に知られていました。


「ダブルカミングアウトだな…」


ほら、やっぱり予想外のこと過ぎて義姉さん目丸くなっちゃってるじゃん!

しかしその顔はすぐに戻り、義妹と判明した…まぁ知らなかったの俺だけなんだけど、

義妹と判明したルミエルに尋ねた。


「いつから気づいてたの?」


「物心付く前から、あー、私とこの人達は魔力の感じが違うな~って、それからちょっとお母さんを付けてみたら案の定私が拾い子だって分かった」


「そっか……なら、家族としての愛情はないよね?」


「ほとんど無いね」


「そう、なら安心して……サヨナラが出来るわ───」


少しだが明るかったティナベルの顔が一瞬にして暗くなり、言い放った言葉は、重く、冷たいものだった。

鎌を出し、構え、地を蹴った。その鎌をルミエル目掛け振り下ろす。

だがその鎌はルミエルへ届くことは無い。

ルミエルの目の前で刃は止まった。ルミエルの放ったシールド魔法によって。


「そのシールド魔法ウザイ」


「いや、知りませんよ」


「本気で行きます」


「その前に私を殺す理由を言いたまえ」


確かにルミエルを殺す理由は無いはずだ。なのに何故ティナベルはルミエルを狙うのか。

だがその言葉を遮りティナベルは詠唱する。


「汝に命ず、我、王の血を受け継ぎし者に有るべき力を与えよ!マハト・ヴィゴーレ!」


呪文なのであろうものを唱えるティナベル。

その呪文を唱えた途端、顔になにか刺青のようなものが現れ、足元には、大きな魔法陣が出来ていた。


「え、ちょ、ルミエルなにあれ」


俺はティナベルの方を指さした。

さっき喋っていた、この前お世話になった彼女には全くと言っていいほど無かった、「殺気」が、今は彼女から溢れ出ているように思える。

血走った目、強い殺気を込めた表情、目で見るのは勿論、ルミエル。


「さっきまで普通だったじゃねぇかよ」


「んー、魔女の力でも取り入れてるんだと思いますよ」


「魔……女、だと?」


「はい、元々は王宮に仕えていたんですけどあまりにも強すぎる魔力ゆえ、いつ暴走するか分からなくて全て焼き殺した……と聞いています。」


つまり、普通の人間というわけだ。

生まれつき魔力が強いが故に魔女とされ、殺された。

まさしく、魔女狩り。この概念がこの世界にも存在していた。


「残酷…だな」


「はい、とても…残酷で、悲惨で……ひどいお話ですよ。それはそうと、来ます」


ティナベルは片手が片手を上げたと同時に、無数の光の槍が現れた。

これでもかと言うほど現れた槍、彼女は上げていた手を俺とルミエルの方を向けて振り下ろした。

「死ね」と、一言添えて。

そしてその槍は俺とルミエルの元へやってくる。


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