第6話 休日


 サンドニタウンへ来て半年過ぎたあたりから、僕は休日をのんびり過ごすようにしたんだ。

 トリマーになってから、休日は魔法のトレーニングに費やしてきた。だって僕は魔法力弱いんだから、使える魔法の技術面を工夫しないといけなかったからね。平日だって、イライザに付き合って貰ってやってたけど、休日は時間の許す限りトレーニングしていたんだ。

 

 魔法力が弱い僕のトレーニングは、微妙な調整と複数の魔法を組み合わせるものが多い。

 力具合や角度、肌までの距離などを調整する練習。

 温風や冷風と送風や吸引の混合とそのバランスを調整する練習。 

 これらをお客さんの反応に即して修正していくのは、かなり難しいんだ。


 魔法力が強いだけではできないし、魔法のセンスがかなり良い人でなければ苦労する。まして、僕のように魔法力もセンスも無い魔法師はひたすら練習しなくちゃいけない。


 だから十年以上ずっと続けてきた。一日も怠ったことはなかったよ。


 でも、イライザの一言で、休日はちゃんと休んで、イライザとの時間も大事にしようと思ったし、魔法のことばかり気にしないで、獣人のみんながどう過ごしているのかを見なきゃって思ったんだ。


 それは仕事を終えて、道具や薬剤を片付けている時だったんだ。


 「シャーロットタウンの時よりブラシが痛むのが早いわね。薬剤が早く減る種類も違うわ」


 原因は何なのか、僕等は話し合ったよ。

 イライザとだけでなく、トニーやサリエともね。

 そして、お客さんの種族がシャーロットタウンとは違うことに気づいたんだ。


 鉱山のような力を必要とする職場で働いている人が多いサンドニタウンでは、いわゆる猛獣系の体力ある獣人が多い。シャーロットタウンでは猫人や犬人が多かったけれど、サンドニタウンは違う。体毛も硬めで、肌の質も違う。

 僕等はブラシと櫛の材質にも工夫が必要だし、ブラッシングの力加減も気をつけなきゃいけないと確認しあったんだ。


 僕はそのあと反省したよ。

 村が違えば、住んでいる人達も違う。

 そんな当たり前なことに気づくまで半年もかかった。

 ……周りをもっと見なきゃいけなかったんだ。


 同時に、結婚式もあげる暇もなく、僕と一緒にずっと働いてきたイライザのことをもっと見なきゃって思ったんだ。こんな僕のことを愛してくれて、シャーロットタウンに居るより大変になるのに、サンドニタウンまで来てくれたイライザのことをもっと見なくちゃって思ったんだよ。


 だから、休日はイライザと一緒に過ごすと決めたんだ。

 二人でサンドニタウンのあちこちを見て回って、村の人達と話して、外で食事して、家では二人でのんびり過ごすことにしたよ。

 イライザはとっても喜んでくれたし、僕も幸せな時間を過ごせて嬉しい。


 「フフフ、こうやって過ごせるっていいですね」


 イライザはそう言ってくれる。人懐こそうな笑みを浮かべ、可愛らしい丸い目を細め、頬を僕にすり寄せてくれる。濃いグレーと淡いグレーの縞の体毛はサラサラで、髪が風に揺れる様子も愛おしくて嬉しくなる。


 こうしてずっと二人手を繋いで歩いて行きたい。

 二人でお客さん達に心地良い時間を過ごして貰えるよう頑張っていきたい。

 イライザがそばに居てくれるなら、僕はどんなことも耐えられるし、楽しめるような気がするんだ。

 ……そしてイライザを幸せにしたいって心から強く思うんだよ。


 いつか僕等の子供が生まれ成長したとき、胸を張ってこう言いたいんだ。

 

 「僕達は幸せだったし、これからも幸せでいられるよう頑張ってきたよ」


 次はどこへ行こうかと、クルクルと表情を変えて僕に訊くイライザを見ながら強くそう思ったんだ。


 「イライザとならどこでもいいよ」

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