第131話 お客さんはかわいいです2
古めいた木の扉を押し開けて店の中に入る。先頭はアデク、その後ろにルーシェ、ミリアと続き、最後尾がアヤトだ。
カランと入り口のベルが鳴り、それを聞いた誰かが振り向く気配がする。
ルーシェとミリアは店内にこれでもかというほど並べられている魔導具に興味を示しているようで、視線があちらこちらに動いている。それにしてはルーシェの目の動きが早すぎる気もするが。
店の奥に進んでいくと、アヤトはカウンターの前に一人の男が立っていることに気づく。
「ねえ、あの魔導具多分断線が起きてる。……それとあっちは調整不足。あと……これは効率がすごく悪いね。……どう思う?」
そんな風に聞いてきたミリアに、他のお客さんがいる前で言わないほうがいいと注意をし、男のほうを示すアヤト。そこでようやく気付いた。
そこに立っていた男に見覚えがあることに。五年前までアルヴ村で見ていた顔。ここで会うのも無理は無い。
アヤトの父親、オスカー・フォンターニュは公都で大学教授をしているのだから。
「――早く帰った帰った」
アヤトが呆然としている間にいつのまにか現れていた女の人にせかされ、急ぎ足で店を出ていく男。アヤトは咄嗟に声をかけることもできず、ただ見送ることしかできなかった。
「アヤト、良かったの? あれ、オスカーさんだったんでしょ」
「……良くは無い。けど、急いでて気づかなかったみたいだし、公都にいればまた会えるでしょ」
「愛娘との再会に気づかないなんて、親としては失格ね」
「……ルーシェちゃん……それが一番の原因。アヤトくんは……女の子にしか見えない」
「娘じゃないっ。僕は男だっ」
いつものやり取りをしていると、店の奥から声をかけられる。
「いらっしゃい。こっちに来な」
女の人の声に従ってカウンター前まで移動する。
「えーっと、アデク君ね。ってことはそっちの子たちは維持隊に新しく入った子かな」
「ええ、そうです。顔合わせをしたいと思いまして。もう三人いますがそっちは後から来るはずです」
「オッケー、じゃあ三人に自己紹介といこうか。あたしはネロ。この魔導具店の店主さ。三人はどれぐらい魔導具のことを……んんん?」
そこで言葉を切り、カウンターから身を乗り出してくるネロ。
「あんたたちどこかで見たような……」
彼女の目はアヤトとルーシェをじっと見つめている。
アヤトはなんだか気恥ずかしさを感じて身じろぎする。
数ミニ経って……
「……やっぱり、分からないわ」
ネロさんは匙を投げた。
「待った待った。ネロさん、僕です。フォンターニュ家のアヤトです」
「ああっ、オスカー教授のところのアヤトちゃんっ。……あれ? でも教授のところの子って息子さんじゃなかったかな?」
ネロさんは結局首をかしげている。
そんな反応に、やはりアヤトは叫ぶのだった。
「だから、僕は男だぁぁぁ」
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