第130話 お客さんはかわいいです1

 店の中には店主と思われる女性。そして彼女と話している一人の男がいた。


「今年もかい。今回は何をやらかしたの?」


「導路の刻み込みを一部ミスっててそれに気づかず魔力導通させた。んでこの部品が吹っ飛んじまった。うちの研究室には残って無くてな、在庫はあるか?」


「こんなギリギリな時期に……まああるから良かったけど本当に気を付けなよ。五年前ぐらいから毎年なにかしら起こしてるじゃない」


「春になると何故か手元が狂っちまうんだよな」


「春っていうと……ああ、息子さんがいなくなった季節だねえ」


「うぐっ」


 男にも思い当たる節があったのだろう。彼は顔をしかめる。


「あれから音沙汰無いのかい?」


「そうだよ。便りのないのはよい便りとは言うが、心配だよ全く」


「そうだねえ。アヤト君、今年で十歳、高校生になるんだね」


「ああ」


「だったら、そのうちばったり会ったりするんじゃないのかい。この街にも高等学校はあることだし、大学から近いじゃない」


「だといいな。確か五年前リベルトとかいうやつは、高等学校からは普通に通わせるとは言っていたがどの街なのかも分らんしな。はぁ、アヤト元気にしてるかな」


「あんたと同じでそう簡単にくたばるような玉じゃないだろ、アヤト君」


「そうだな」


「んじゃあそんな悩みなさんな。っと急ぎの用事だったんだね。裏から持ってくるから少しの間だけ店番よろしく」


「分かったが、俺のせいで客が逃げて行っても知らんぞ」


「大丈夫大丈夫。来るのはあんたみたいな常連のオジサンだらけだよ。一見さんなんてそう来ないからね。というわけでよろしく」


 そういうと、女は店の奥に引っ込む。手持ち無沙汰になった男は店内を見回していた。所狭しと置かれている魔導具。素人には外見だけでは分からないものだが、古き良きかなりの旧式から昨年実用化研究が終わったばかりの最新式までずらりと並んでいた。一つ一つに目を留めどのようなコンセプトで作られたものなのかそれを考えていると、カランと入り口のベルが鳴る音がした。男がそちらに目をやると、入ってきたのは男女四人組。女子三人に、男子一人の組み合わせだ。そこで男は彼らが自分の大学の近くにある高校指定の体操服に身を包んでいることに気づく。


「高校生だけでここに来るなんて珍しいお客さんだな」


 先頭に立つ男子は背丈は高校生の平均と同じぐらい。体操服越しに見ればそこまでがっしりとした体格には見えないが、男は彼の体の動きと足の筋肉の付き方から彼が高校生にしては十分すぎるほど鍛えていることに気づく。

 そしてその後ろ銀髪の女子。彼女の碧く勝気そうな目は機敏に店内を見回している。その視線の動きは猫のようにしなやかでありそうな彼女の体と相まって、狩られるかもしれないと男を萎縮させた。

 それと対照的なのはその後ろ、亜麻色髪の女子だ。碧目の子と同じように彼女の紅い目は店内を見回しているが、その動きはゆっくりで純粋に店に置いてあるものに興味を示しているように見えた。

 ようやく普通の高校生っぽい子を見て、高校生は自分が思っているよりも危ない奴らが多いのか、と混乱しかけていた男は落ち着きを取り戻す。が、落ち着いていられたのはほんの一瞬彼女が後ろの女子に話しかけたその言葉を聞く前までだった。


「ねえ、あの魔導具多分断線が起きてる。……それとあっちは調整不足。あと……これは効率がすごく悪いね。……どう思う?」


「二、三個だったら多分経年劣化とかだと思う。売るときにはちゃんとチェックするはずだから大丈夫だよ。まあ、後で店主さんに伝えておこうね。それより他のお客さんもいるんだし、そんなことを言ったらお客さんがこの店に来なくなっちゃうかもしれないから、大きな声ではあんまり言わないほうがいいかも」


 計測器も使っていないのに、置いてある魔導具の不具合を上げていく少女。その非常識さに男は目を白黒させていた。

 そんな彼を「ほら」と言って指差す最後尾の女子。灰色髪の彼女は自分が指差した男を見て目を大きくする。しかし、あまりにも混乱している男はそれに気づかなかった。


「なんなんだよこいつら」


 男の口から漏れ出る本音。偶然にもその言葉は彼の一番近くにいた人の耳に入って……


「失礼じゃない? かわいいお客さんに向かって。彼女たちが教授を店員と勘違いしてこの店に来なくなったらどうするの」


 男は奥から戻ってきていた店主に注意されるのだった。


「はい、部品ね。五百ミラよ。教授は時間もないでしょうし、あたしはあの子たちの相手をしたいから、早く帰った帰った」


 時間がないことは確かなので店主にせかされるままに男は会計を済ませると足早に店を出ていく。すれ違った四人組に話しかけることもなく……

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