第132話 お客さんはかわいいです3

「はははっ、ごめんごめん、アヤト君。でもほんとに大きくなっちゃって」


「ええ、お久しぶりです」


「アヤト、お前ネロさんと知り合いだったのか」


「うん。初等学校に入る前に来たことがあってね」


 アヤトがルーシェと知り合うことになったあの事件の前日のことである。


「そうそう、こんなにちっちゃかったのに魔導具とか魔法とかについていろいろ話したんだよね」


「そうですね、ってそんなちっちゃくないっ。一寸法師じゃないんだから」


 こんなに、と言って両手の幅を三サントメーテぐらいにして見せるネロにお決まりの返しをするアヤト。しかし……


「「「「いっすんぼうし?」」」」


「あっ」


 もちろん向こうの世界のおとぎ話など皆分かるはずもなく、頭の上にはてなが浮かんでいた。その様子を見て、失言に気づいたアヤトはスッと短く息を吸い込む。そして目を閉じて何か思案するようにすると、ニヘッと誤魔化すように笑って言う。


「えーっと、家にそれぐらいちっちゃな人間が出てくる物語があったんだよ」


「へえそうなの。確か、アヤトの家の書庫にはびっくりするほどたくさんの本があったわね」


 さして興味のないように言うルーシェ。その隣にアヤトが目を向けると。

 そこには爛々と目を光らせたミリアがいた。どこからどう見ても、読んでみたいっ、と顔に書いてある。

 一寸法師の本などあるわけもなく、代わりに語り聞かせるという手段もアヤトがその内容をはっきりと覚えていないために取れない。アヤトが悩み、最悪自分で改変して語るか、と考えていると、アデクとネロはもう魔導具の話に移っているようだった。


「んで今日は何の用なんだい?」


「維持隊で使っていたこの魔導具が故障してしまいまして、修理をお願いしようと」


「はいよー、って……ん?」


 アデクから魔導具を受け取ったネロは手にしたそれを見て首をかしげる。


「これ、三月ほど前にメンテナンスしたばかりじゃないかい?」


「ええそうです」


「もちろんそっちでも使用前後のチェックは欠かしてないんだね……というか洞窟に潜ったり採掘するわけでも無いに、いつこんな魔導具使う機会があるんだい」


「あはは、今回は新入生勧誘の一環で隊長が無茶を言いましてね、それで使うことになったんです。使用の三十ミニ前には問題なしだったんですが、いざ使う段階で魔力を流しても反応がなかったんです」


「へえ、三十ミニの間に壊れたと」


 そう言いながらネロは魔導具の底板を開く。そして奥の棚から二つの電極棒のようなものがついた箱を持ってきた。箱には通常の魔導具のようにメーターと太陽電池のようなパネルがついているが、ダイヤルは無い。

 ネロはその箱から伸びるコードの先についている、先の尖った棒を両手に一本ずつ持ち、魔導具の中に突っ込む。


「ふむ、ここからここは問題なし。こっちも絶縁。こっちは導通。ここは……」


 ここでネロさんは何かに気づいたように手を止めた。


「ねえ、アデク君。あり得ないとは思うけれど、使用時に数十人で魔力を流したとかはないよねえ」


「まさか、そんなことはしませんよ」


「だよねえ。……まあいいや。とりあえず故障箇所は分かったからさっさと直してくるよ。畜魔素子を差し替えるだけで済むからねえ」


 そういうとネロさんは店の奥へと向かった。

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