二章

第121話 入学式前には会合です1

 春の朝方、公都ベルバリアの北地区。そこにあるベルバリア高等学校学生寮で俺はいつものように目を覚ます。一年間も生活していればこの時間に起きることも習慣づくものだ。

 さっさと朝食と着替えを済ませ、玄関から出ていく。まだ登校するにはかなり早い時間である。にもかかわらずこんな時間に寮を出たのにはもちろん理由がある。それは、俺が所属している組織の会合があるからだ。今日の議題は新入生の勧誘について。何故わざわざそんなことについて話し合わなければならないかというと、この組織が学校からは非公認であり、また活動内容を鑑みると大々的に勧誘活動を行うわけにはいかないという二点が大きいからである。


 迷路のように入り組んだ路地を学校に向かって歩いていく。いや、学生寮なんだから学校の近くに作れよと言いたいところだが、少し長めの道は考え事をするにはちょうどいい。

 新入生の勧誘。新入生か、本当だったらあいつらが今年入学してくるはずだったんだよな。

 俺が思い返すのは一学年下だった奴らの顔。頭に浮かぶその顔は五年も前のだから今はもう全然違うだろうが。

 五年前、俺の頭に衝撃を与えた(主に心理的にだが、物理的にも少々)事件から少しして、奴らは忽然と姿を消したのだ。それも、一学年丸々と。あの時、担任の先生が顔をしかめていたのが少々気になった。

 あいつらがいたら俺の初等学校の生活はもっと楽しいものだっただろう。昔は立ち向かってくるのを期待してからかい続けていたのだ。しかし、あいつらがいなくなって結局俺の周りに残ったのは、俺の親が大臣だからって俺の言うことを何でも聞く奴らだけ。そんなのじゃあつまらなかったから、俺は剣と魔法の稽古に打ち込んだ。

 そうだ、この二つの稽古もあいつがきっかけだったな。そう、俺の頭に衝撃を与えた事件だ。あいつが格闘術を親から習っているというのは聞いていたが俺はあの時まであんな力を持っているなんて思ってもいなかった。あいつらがワーウルフの群れから生還したっていうのも大人が守ったんだろうと思っていた。けれど、あの時教室を吹き飛ばしたのを見て、それが全くの勘違いだったのだと気づいた。

 あの時のあいつの表情。あれが忘れられない。あいつの拳が外れたのを見て、あいつ安堵したんだぜ。そのあと焦った顔をした直後に校舎に穴が空いたんだ。つまり、あれはやろうとしてやったんじゃないってこと。もしあいつが俺に攻撃する意思があったら、もしあいつが脅しのために本気でその何かをやっていたら、俺は消し飛んでいたかもしれない。そう思うと震えが止まらなかった。

 しかも、もしあんなのを悪意ある人間が使ったとしたら俺はただ何もできずに諦めるしかないのか。そう思ったらもうやることは一つだったのだ。その夜、俺は父親に頼み込んだ。

 強くなりたい。何でもいいから強くなる方法を教えてくれ、と。

 そうして今まで努力し続け、得た力を役立てさらに伸ばしていくために、去年この組織、ベルバリア高学治安維持隊に入ったのだ。


 学校の門をくぐり、右手に見える格技棟へと向かう。見上げれば空は透き通り、大きな校庭の端には桃色の美しい花のつく樹木が並んでいる。それは入学生を歓迎しているように咲き誇る。

 今日は入学式。それが終わる前に今年はどうするのか決め切らないといけない。とは言っても去年入った俺は勧誘の会合にはもちろん初参加なのだが。

 考え事をしていたら少々足が鈍っていたらしい、校舎の時計を見ると集合時間まであとわずかだった。駆け足で集合場所に向かう俺だったが、その時目の端に一人の生徒が映った。

 気が早い新入生だろうか、グレーの長髪を後ろに流したその生徒は校庭の風景を楽しむかのように見渡している。

 その生徒に何か違和感を感じはしたが、それをスルーして俺は建物に駆け込んだ。

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