第122話 入学式前には会合です2

「おはようございます」


 そう言って格技棟のメインスペース、第一修練場に足を踏み入れたのはアデクだ。彼は入ると同時にサッと視線を巡らせる。前方に三人、左側方の壁に四人、右前方に三人。忘れずに物によって死角になる位置も把握して二歩目を踏み出す。その時――


「うーん惜しい、マイナス十点だね。ちょっと踏み込みすぎだよ、アデク君。だからここが死角になる。まあでも今ここにいる人の中で第二位の点数だ。成長したね」


 右肩越しにかけられた声に慌てて振り返るアデク。


「ジムネさんっ。なんでここに?今日は特に訓練はないのでは」


「そうだね。でも、ちょっと用事があったから立ち寄ったんだよ。ついでに抜き打ちテストをと。全員揃ったみたいだしこれで僕は失礼するよ」


 ジムネと呼ばれたその男は手を振って部屋から出ていく。残されたアデク達はその背中を見送る。そして数瞬の沈黙の後、集合の声がかかった。整列した治安維持隊の前にいる男は低い声で言う。


「お前らたるんでないか?コーチからプラスの点を貰ったのが俺だけってどういうことだよ。特に上級生。入って一年のアデクよりもなってないなんて緩みすぎだ。今日は無いから明日の訓練から二周追加だな」


 ええー、と不満の声を上げる隊員。それを目力だけで抑えた男――治安維持隊の現隊長は続けて言う。


「文句は後で聞く。時間もないからちゃっちゃと進めるぞ。今日は入学式だ。今年も新入生の勧誘を行う。さっきジムネコーチが嬉しい知らせを持ってきたが、それに頼り切るのも悪いだろう。というわけで予定通り勧誘方法を決めるぞ。お前ら考えてきたよな。意見がある奴は挙手しろ」


 隊員たちはお互い顔を見合わせるが誰一人として手を上げない。その様子を腕をプルプル震わせながら見ていた隊長はついに噴火した。


「お・ま・え・ら。やる気あんのかコラーッ。まさか誰も考えてきていないわけじゃあるめえよな。こうなったらコーチ直伝のじゃんけんで決めるぞ。ほら全員手を出せ。はい、じゃんけん――」


「ちょっと待ってください。隊長は何か案があるんですか」


 隊長が勢いに任せてじゃんけんタイムを始めそうになったところで、隊長の一つ下、四年生の副隊長が待ったをかける。


「ああ?そりゃ考えてきたに決まってんだろ」


「じゃあ、まずそれから聞かせてください」


 副隊長の言葉に「そうだな」と答えると、隊長は語りだした。


「前提として、この隊に入るのに適性がある奴は有事の際に率先的に動けるような奴だ」


 うんうん、と頷く隊員。


「そして同時にある程度の実力もいる」


 うんうん、と頷く隊員。


「また、この町の治安を守るにはきれいごとだけでは収まらない。時にはルールを破ることもある。その覚悟が必要だ」


 うんうん、と頷く隊員。


「だから、それらの適性全てを見る作戦を考えてきた」


 おおっ、と声を上げる隊員。


「それでは発表しよう。まず、入学式が終わって新入生が教室に入ったタイミングで校庭で爆発を起こす」


 うんう――、と動きを止める隊員。


「その時に、対処しようと動いた新入生を監視するんだ。ここで行動を起こした奴は一次試験クリアといったところだろう。そして、爆発を起こす役目の奴はここまで逃げてくる。もしここにたどり着いた奴がいたらそのまま戦ったりして実力を見ておく。たどり着けなかった奴もとりあえずさらってここまで連れてこい。んで、実力を見た後目に留まった奴に説明とかして勧誘するんだ」


「「「ちょっとまてぇい」」」


 ここまで説明した隊長に全員から総ツッコミが入る。もちろん隊員たちの心は一つだった。


 そんな犯罪まがいの勧誘なんてしたくねー。


 結果、隊長の案など採用したくない隊員たちは必死に作戦を考え、はげしい議論を交わすのだった。

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