第120話 出発は日没後です

 夜の帳が下りた頃、村の入り口に一台の馬車――つながれているのは馬ではなくホーンシュヴァルだが、と数十人の人が集まっていた。そう、昼にギルド内で話し合っていた僕たちである。母たちの質問責めの後、僕たち全員に騎士団第三師団に入る意思があり母たちもそれを了承、結果父たちも折れて許可を出してくれた。そうして今、出発しようとしているのである。


「こんなに暗くなってから出発するなんて大丈夫かな」


「ビートか。まあランタンもあるし、あの赤男が御者兼護衛をやるみたいだから大丈夫なんじゃないかな。じゃなかったらそんなこと言い出さないと思う。」


 後ろからの声にそう答えるが、ビートはまだちょっと不安そうな顔だった。確かあの時もこんな暗さだったな。この村であったことをふと思い返していたところに再びビートから声がかかる。


「そういえば、これから上司になる人を『赤男』なんて呼んでいていいのか」


「僕だって女坊主呼ばわりされているんだから本人が聞いていないところでぐらいはいいじゃないか」


「おうおう、そうだよな女坊主。別にそういう呼び方したって構わないよな」


「そうそう、そうやって呼んだって……って」


 慌てて振り返るとそこには腕組みをした赤おと……リベルトさん。どう弁解しようか考えていると、リベルトさんに先んじられる。


「まあ俺は気にしないからいいぞ。その代わりお前の呼び方は三師団内に浸透させるがな」


 呼び方めっちゃ気にしてるじゃないですか。

 変な呼び方が広まっちゃう、と頭を抱える僕。そこに、「おーい、アヤトーじゃなかった。女坊主ー。荷物の積み込みこっちは終わったぞー」とアレフが呼びかけてくる。今のやり取り聞いてたのかよ。

 ああ、さっきリベルトさんがいっていた三師団というのはヴァリア公国騎士団第三師団は長いから三師団と略しているそうだ、と誰に言うでもない説明で気を紛らわせつつ、馬車の方へ向かう。荷物の積み込みはアレフが最後だったのだ。


「アヤト、体には気を付けなさい。それとフーシアのことはくれぐれも頼みましたよ」


 馬車に乗り込む前に母と挨拶を交わし、まだ一歳と少しの妹を託される。


「アヤト、フーシアに何かあったら許さんぞ。っと、もちろんお前も元気でな」


 一瞬、娘至上主義の父親になりかけていたが時々ポンコツな父も流石にこの時ばかりはちゃんとした父親だった。

 両親に今までの感謝と再会の約束をして、フーシアとともに馬車に乗り込む。二度目の人生、精神年齢としてはもう二十五歳となる僕だけれども、やはり愛情をかけて育ててくれた両親との別れにはやはりこみ上げるものがあった。

 他の皆もそれぞれ親との挨拶を済ませ、次々に乗車する。そして、全員が座ったことを確認してリベルトさんは言った。


「それじゃあ出発するぞ。」


 馬車は動き出す。

 そしてしばらくして、幌の間から見えていた村の光が地平線の向こうへと沈んでいったのであった。

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