第106話 三日目の顛末です3

「で、要件は何なの?」


僕は聞くが、アデクは気味の悪い笑みを浮かべたまま黙って近づいてくる。

ちっ、待たせた挙句、何なんだよ。

鋭い視線を送っていると、僕から二メーテほどのところでようやく口を開いた。


「おまえ、体術教わってるんだってなぁ。」


取り巻きが、校舎を背にした僕とその正面にいるアデクの周りを囲む。


「俺らにも教えてくれよぉ。」


「やだね。」


囲まれたことに意識がいっていた僕はアデクの要求に対して

言葉を選ばずに本心を言ってしまう。

怒らせてしまったか?

そう思い、アデクの様子を窺うと眉がひくついている。


「なんでだ。教えろよ。」


「だって、アデク自制できないでしょ。

どうせ人を怪我させちゃうんだろうから。」


待たされたストレスか何か知らないが、今日の僕はどうも口が滑るらしい。

ポンポン本心がこぼれ出てしまう。

自分が言った言葉が何だったかに気付き、まずいと思った時には


「なんだとっ。」


アデクが切れて、殴りかかってきていた。

間一髪かわし、取り巻きは来ないかと周りの様子を把握しようとしたところでアデクが言う。


「お前ら、手を出すなよ。」


見栄なのかどうかはわからないがラッキーだ、

とりあえずアデク一人だけの相手をすればいいということで余裕が生まれる。

アデクの手をかわしつつ、どうやって逃げようか考える。

多分、包囲網の方に行けば、アデクも取り巻きに逃がさないようにと指示を出すだろう。

うーん、殴り返すのは論外だし、意識されないぐらいゆっくりと包囲網の方に移動して一気に突破するかな?

……いや、アデクもそんなのに引っ掛かるような馬鹿ではないだろう。

じゃあ、指示が間に合わないような速さで逃げればいいか?

五メーテぐらいあるから身体強化使わないとそんな速度出せないんだよなー。

どうしよう。とりあえず魔力(じゃない可能性が高いのだろうが)を動かす準備だけして――


相手がど素人だからといって悠長に思考を巡らしているのは迂闊だった。

まぐれだろうが、ちょうど対処の難しいタイミングと角度でアデクの拳が飛んできていた。


まずいと思った時にはもう遅い。

アデクの手が体に当たる直前、訓練の成果だろう、僕の左手は半ば自動的にその手首を掴み

アデクを背後の壁に押し付けてしまっていた。

そして、こちらも機械的に、右手を引き、そこに魔力が集まって……


拳の打ち出し始めでハッと気づく。

いかん、このままだと死傷させてしまうっ。

いくら嫌がらせをしてきていたとはいえ、

そこまでやってしまってはお互いに面倒なことになる。

しかし、動き始めていた右手は止まらない。


こんにゃろうっ。

なんとかアデクの顎に向かう手を無理矢理横にずらすことに成功する。

ふぅ、なんとか怪我させずに済んだな。

アデクの顔の横を通過する拳を見ながら安堵する。

しかし、力を抜いてしまったせいか


「しまっ――」


集まった魔力を前に打ち出してしまった。


ズドン、という重い音が響き渡り、

気づくと目の前の壁が、いや校舎の一教室分のスペースが丸々吹き飛んでいたのだった。

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