第103話 始まってからの三日です8

「よっしゃあっ。」


アレフが声を上げる。

作戦が功を奏し、一瞬の隙を突いて石を奪った僕たち。

その石は少し遠くに投げておく。


「ちぇーっ。」

「くそぅ。」


悔しさを露わにしながら石を拾いに走る二人。

相手が石を戻す間に、僕たち五人は校庭から離れる。

離れずに物量作戦っ、とかやったらゲームにならないからね。

これが、怪盗団側が気をつけないといけないことだ。

何回盗まれたか把握するために警邏はちょくちょく陣地に戻らないといけないというのも、

このゲームで気をつけるポイントの一つだ。


とりあえず、村で三人を引きつけ続けているはずのルーシェちゃんを助けに行く。

まずは、中央広場に向かって走っていると……

横の路地からルーシェちゃんが歩いて出てきた。

ああ、歩いて校庭の方に向かうって事は、


「ルーシェちゃん、捕まっちゃったのか。」


「何言ってるの?アヤト。」


「え?じゃあなんで一人で歩いて?」


「そんなの撒いたからに決まってるじゃない。」


「三人を相手に?」


「そうだけど。」


「「「「「……」」」」」


僕を含めて五人全員が黙り込む。

いや、いくら身体能力が優れているからって

同年代の男子三人相手に、逃げ続けるだけじゃ無くて

撒くって……

ちょっと末恐ろしいぞ。


「ま…まあ、じゃあ次は――」


「いたぞっ。」


次の作戦を打ち出そうとしたとき、警邏三人に見つかってしまう。

咄嗟に散り散りになって逃げる僕たち。

路地の角を曲がるとき見えた、アデクのにやりとした顔が頭にこびりついた。




「はあ……はあ……

なんで……僕ばかり狙ってくるんだよ……」


壁に手をつきながら息を整える。

あれから十ミニ、僕は村の端へ端へと追い詰められていた。

それにしても、なぜ三人とも僕の方に来るなんて変な事をするんだ。


「くそっ。」


アデクが路地からゆっくりと姿を現す。


「逃げないのかぁ?」


その声に追い立てられるように僕は丁字路を左に駆け込む。

そこには、


「アデクの言ったとおりだぜ。おとなしく捕まりな。」


さっきの丁字路に引き返すも、その直前でアデクに前をふさがれた。

もはやこれまでか……

この状態からフェイントを入れて躱したりすると

アデクの機嫌も損ねて後で面倒なことになりそうなので

僕は両手を挙げて降参する。


それを見たアデクは唇の端をつり上げて近寄ってくる。

そして、僕に手を伸ばし……


次の瞬間、僕は突き飛ばされていた。


「は?」


タッチを避ける気が無く力を抜いていたために対応出来ず、僕は倒れる。

そこで取り巻きの一人が背後から何か取り出して僕に向けてきた。

あれは……魔導具。


「くっくっく。アヤトォ。アレが何か分かるよな。

おまえみたいな魔力無しには使えない魔導具だぁ。

撃たれたく無ければ抵抗するなよ。」


そう言うと、僕の横腹を靴で小突くアデク。


「魔法を作った家系なのに魔力が無いとか滑稽だよなぁ。

そのくせに、生意気なんだよっ。」


僕を突いていたその足が後ろに大きく振り上げられた瞬間――

周りの空気が重くなったような錯覚に陥った。


「なにやってるの。アデク達も、アヤトも。」


その原因は向こうの道から現れたルーシェちゃんだった。

プレッシャーを放ちながら近づいてくる銀髪の少女。

その奥の建物の陰からはミリアちゃんの顔が見えているが、

怯えきった表情をしている。

ルーシェちゃんに気圧されたのか、ちっ、と舌打ちをしてその場を離れるアデク達。

残された僕は、ルーシェちゃんに詰め寄られる。


「なんでアヤトはやり返さないの。

あんな奴ら簡単に反撃できるのに。」


「人相手には訓練か、命に関わるような時以外は体術を使うなと言われてるからね。

武術で人を傷つけるようなことはしちゃダメなんだ。」


そう言うと、ルーシェちゃんは険しい顔をしてどこかへ行ってしまった。

それと入れ替わるかのように紅目の少女が駆け寄ってきた。


「……大丈夫?アヤト君……」


「うん。鍛えてるからね。」


僕の脇腹を撫でるミリアちゃん。

その姿に癒されながらも、アデクに対するもやもやとした気持ちが心に残るのであった。

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