第67話 アジトは地下です6

「ディーさん危ないっ。」


僕は叫びつつ、女の子を止めるために駆け出す。

敵がサインを送っている段階で気付いたため、

初動を早くでき、あと半歩で追いつける。

しかし、その半歩が遠い。

ディーさんまで残り五歩のところで

女の子は腰の後ろ、服の中に左手を伸ばし、

そこからナイフを引き抜く。

その鞘からなにか液体が飛び散るのを僕は見た。

男とのつばぜり合いで動けないでいるディーさんは

こちらに顔を向けると、目をく。

そのタイミングで剣に渾身の力を入れる男。

そのせいで、バランスを崩されて対応出来ないディーさん。


このままじゃ間に合わないっ。

もう一歩。もう一歩分だけ詰められればっ。


ディーさんまであと二歩。

女の子は左手を後ろに引く。

ここで、僕は身体強化に賭けることにした。

今前に出ている脚、次の蹴り脚となる右足に魔力を集める。


残り一歩。

後は踏み込んで武器を突き出すだけの間合い。

ディーさんを鋭く睨み、狙いを定める女の子。

僕は右足に力を込めつつ、その腕に手を伸ばす。


届けっ。


残り零歩。

踏み込みとともに一切の容赦もなく突き出されるナイフ。

だが……


バシッ


僕の右手はナイフを持つ左手を掴んでいた。

そして、その軌道を曲げる。

ディーさんの右脇を抜けていくナイフ。

僕は掴みながらなんとか右手を引き戻しつつ

後ろに身を引く。

その場を離脱しつつ、ステップの勢いで女の子の体勢を崩して倒し

地面に押さえつける。


「やぁってくれましたぁねぇぇぇ。」


今までつかみ所が無かった男が怒りを露わにする。

ということは、この子の存在が切り札だったというわけだ。

苛烈な攻撃を、窮地を脱したディーさんは冷静に捌いていく。


さっきまで一切攻撃を仕掛けてこなかった敵も、

僕の方に向かってくる。

それを見た母が弾幕の一部をその敵に向ける。

すると、そいつのフードがめくれた。


「依頼人さん?」


母がつぶやく。


「あの人依頼人なの?」


「多分ね。応援第一陣として出発する前に、特徴を聞いたの。

依頼人さんは昼にギルドから出て行ったきり、戻って来てなかったらしいのよ。

おそらく、公都の中を捜索し続けているから、

もしここに来る途中にでも見かけたら一旦ギルドに戻るように伝えて欲しいと

職員さんに頼まれたのよ。

そこで聞いた特徴と、あの女の人の特徴は完全に一致しているの。」


「じゃあ、ネロさんが尾行していたフードの人って……」


ローブ着た女に目を向ける。


「あーあーあー。これだから察しの良い奴らは嫌いなんだよ。

やりにくいったらありゃしない。」


女は吐き捨てるように言った。


「それじゃあ……」


「ああ、そうだよ。誘拐事件から自作自演だよ。

ここまでたどり着けるような実力者を始末するためのな。

おまえのせいで台無しになったけどな。」


そう言って僕を指差す女。

そして、さらに言葉を続ける。


「ルーシェ、ここまで鍛えてやったのになんだそのざまは

そんなガキごときに邪魔されるなどとは……」


僕が押さえ込んでいる女の子がビクッと震える。


「ちっ、もうあんたは要らないな。」


そう言ってから長髪の男のそばへ移動する女。

ディーさんと男の間に炎の壁を作り出して

無理矢理戦いを中断させると言った。


「作戦を繰り上げて最終段階にいくよ。」


「早すぎぃでぇぇぇす。

まだ、いけるでぇす。」


「文句を言うな。あたいは今腹が立っている。

次言ったらあんたの首が飛ぶぞ。」


そして、男と女は壁際に移動する。

このまま何かさせてはまずいと思い

駆け寄ろうとするが、間に合わない。


「じゃあ、さよーなら。」


そう言って女は壁のレンガを押し込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る