第66話 アジトは地下です5

「やぁられましたねぇ。」


再びディーさんと打ち合っている男は

ヘラヘラ笑いながら言う。


「まぁ、いぃでぇすよぉ。

もう今は必要ないでぇすしぃ。」


必要ない?

もう何かした後なのか?


女の子の状態を確認していた僕は男の言葉を疑問に思う。

結ばれていたロープはディーさんがすでに剣で切っていて、

その細い腕と脚は解放されている。

意識は無いが息はしているので命に別状はないようだ。

銀色の髪が生えている頭から、白い足先まで見ても

特に何かされた痕は見当たらない。

さすがに服の中を見るわけにはいかないので、とりあえずだが。


「おまえらはあの子を攫って何をした?」


つばぜり合いをしながら聞くディーさん。


「さぁて、なぁんでしょうねぇ。」


男は正直に答えるわけもなく、はぐらかす。

チッと舌打ちをしながら、引きつつ剣を振るうディーさん。

男も後ろに下がり距離が開く。

そこで睨み合う男とディーさん。


「女の子は取り戻したし、

おまえら、敵が十分減ったら退却に移るぞ。」


「「「「「了解。」」」」」


全員で応える。

そして、僕はまた状況確認を始める。


踏み込みの足音、武器の打ち合わされる金属音、

氷が着弾する破砕音が響く。

地下特有のヒンヤリした空気の中で

炎弾の熱を肌で感じる。


地面に倒れているローブ達も増えて相対する敵は減っているが、

いくら実力差があったとはいえ、かすり傷など細かい怪我を負い

体力も削られた現状では相手を突破する余力は無い。


さらに把握に努めていくと、おかしな動きをしている敵がいることに気付いた。

戦う振りをしながら、実はこちらに攻撃を仕掛けてきていない。

僕たちの周囲を少しずつ回りながら、なにか時機を待っているようにも見える。


みんなに注意を促そうかと、声を上げようとしたところで……


「……う、うう…ん。」


下を見ると、女の子が目を開けようとしていた。


「大丈夫?」


意識を取り戻した女の子は上体を起こして、

周りを見回している。

良かった、大丈夫そうだ。


「ディーさん、女の子が目を覚ましました。」


「わかった。坊主。

じゃあ、敵が三人まで減ったら教えてくれ。」


男の剣をはじきながら言うディーさん。


「了解。それと、みなさん敵の中に一人……」


おかしな動きの奴の事を伝えようと話しつつ、

そいつを見ると、


小さくハンドサインを出していた。


何だ?

親指を立ててディーさんの方を指さして

そちらを突くような動きをしている。


まずいと思って咄嗟に周囲を確認すると、

長髪の男とのつばぜり合いでこちらに背を向けているディーさんに向かって駆け出す人影があった。


それは……




さっき目を覚ましたばかりである

銀髪の女の子であった。

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