第68話 アジトは地下です7

ゴゴゴゴッと地響きが聞こえてくる。


「なんだ?」


警戒し身構える僕たちの目の前に

パラパラと砂が落ちてくる。

ハッとして、すぐに叫ぶディーさん。


「みんな、頭を庇って伏せろっ。」


直後、轟音とともに崩れ落ちる天井。

落ちたレンガは砕けて一部塵になり視界を奪う。

揺れる地面、消えるランプ。


「ぐっ。」


レンガが頭に当たるなどの致命傷は避けられたが、

いくつかの瓦礫が身体のあちこちに直撃する。

そして、どんどん落ちてくる物の下に埋もれてしまう。


しばらくしてここの崩落はひとまず収まったようだ。


「おいっ、大丈夫か?」


左手に明かりを持ったディーさんが

僕の上から瓦礫をどかして聞いてくる。


「ええ、だいじょ――っ。」


脚に痛みが走る。

これじゃあ、ゆっくり歩くのがやっとだ。


「そうか、怪我しちまったか。

……ウォーレル、頼んでいいか?」


「……了解。」


「すぐにここから離れるつもりだが、女の子は……」


そう言うと、ディーさんは僕の横に目を向ける。


「庇ってやったのか、偉いな。」


庇った?


僕も横に目を向けると、

倒れた格好のまま少し顔を赤くしてボーっとしている銀髪の女の子がいた。

こんな崩落に巻き込まれたのだ、

呆然としているのも仕方ない。

っとそうか、さっきまで取り押さえていて、

そのまま伏せたから庇う形になったのか。


「女の子の方はチェルミナ、頼む。」


「了解、隊長。」


チェルミナさんが女の子に近づくと、

女の子は急に立ち上がった。


「寄るなっ。

母さんは、母さんはどこだっ。」


そして、僕たちから距離を取る。

そんな女の子に、ディーさんは困った様子で声をかける。


「それは分からん。逃げたらしいからな。」


そう言って、崩落前に男と女がいた場所を指さすディーさん。

そこだけは瓦礫が散らばっていない。

男も女も姿は消えている。


「それと、本当にあいつがおまえの母なのか?

あいつ、おまえを巻き込むことを分かっててスイッチを押したみたいだぞ。」


「うるさいっ。」


「それに、スイッチ押す前に――」


「うるさいうるさいうるさいっ。」


耳をふさいでしゃがみ込む女の子。

その目からキラリと光るものがこぼれたのが僕には見えた。


僕はなんとか女の子の後ろに回って両肩に手を置く。


「つらいと思うけど、ここは危ない。

もし、ここでまた瓦礫に埋もれて死んじゃったら

もうお母さんには会えないんだよ。

それに、ここで待っていても君のお母さんは戻ってこないと思うよ。

まずはここから離れて、それから考えよう。」


しばらく動きを止めていた女の子はやがて小さく頷いた。


「ありがとう。

……それじゃあディーさん。行きましょう。」


そして僕は女の子に手を伸ばす。


「立てる?」


女の子はおそるおそる僕の手を取り立ち上がる。

女の子を立たせて手を放したところで

僕の脚はもう限界だったみたいだ。

倒れていく中、僕は心の中で涙を流す。


ああ、実際に死んでしまった僕にそんなことを言う資格はあるのか。

本当にごめん。お父さん、お母さん。


傾いていく視界。

咄嗟にそんな僕を支えたディーさんは小声で言った。


「かっこつけすぎだぜ。

でも、よく言ってくれた。

ありがとうな。」

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