第9話 父親は……うっかりさんです
「いいか、魔力の源泉は心臓の辺りだ。まずはそこに意識を集中しろ。」
僕は目を閉じて集中する。
すると今まで気づかなかったが、胸の中央辺りを中心にもやもやしたような雲みたいなつかみどころの無い『なにか』が広がっている。
体全体に広がってはいるようだが、心臓付近から離れると急激に薄くなっていって手とか足とかの末端部ではほとんど無いと言っていい程である。
これが魔力か?
「そうだ。それが魔力だ。人によって感じ方は違うが、なにかを感じたならばそれが魔力だろう。そうだな……」
父は僕の右手の甲をつついて言った。
「じゃあ、その魔力を少しずつでいいからここ、右手に集めてみろ。」
魔力を右手に……
魔力を右手に……
魔力を右手に……
魔力をみぎてに……
魔力をみぎてに……
まりょくをみぎてに……
まりょくをみぎてに……
まりょくを……
……
……
全っ然、集まらん。
いや、さっきよりほんの少しだけ右手にある魔力の量は増えた……気がする。
本当に、気がするというレベルなのだ。
「最初はそんなもんだろう。で、身体強化があまり知られていない理由はそこにある。
魔導具は今おまえが集めた魔力よりほんのちょっとだけ多いぐらいの魔力を流せば、
火を起こしたり、水を生み出したり、いろいろ便利なことができるからな。
こんな毎日練習が必要で面倒くさい魔法なんて覚えてるやつの方が少ないってわけだ。」
自分が教えている魔法を面倒くさい魔法だなんて言っちゃったよこの人……。
一体どれぐらい練習すればいいのだろうか。
「まあ俺の経験からすれば、半年も練習すれば身体強化ってギリギリ言えるレベルにはなるだろう。
毎日欠かさずやらないといけないがな。」
「これをまいにちやるの?」
「そうだ。本当に魔法が好きならできるだろう。俺だってこの年まで続けているんだぞ。」
「じゃあ、まりょくほーしゅつは?」
「魔力も十分に集められなくて、それを飛ばせると思うか?試してみるか?」
僕は少し考えるが、
「……むり。」
「そういうことだ。ということでアヤト、明日から俺の研究室に来い。練習に付き合ってやる。」
「わかった。」
と僕は答えるが、
「あの、オスカーさん。明日からは学会週間なのでは?」
「ああぁぁ、そうだったぁぁぁ。忘れてたぁぁぁ。」
父は絶望的な声をあげた。
「あと、学会の資料は作ってあります?」
父は灰になった。
父にしっかり止めを刺した母は、
「お母さんもお父さん程じゃないけど使えるから、しばらくは私が教えてあげるわね。」
と言って微笑んだ。
……メアリーさんって………
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