第3話 我は王女に撲殺された魔王です
我は魔王である。
いえ、だったというべきでした。
人間の国の姫に撲殺されて、現代に転生したのです。
あれはいま思い返すことすら恐怖にかられます。
二度とあんな眼にはあいたくありせん。
いかなる勇者であろうと剣であろうと、倒すことあたわずといわれた我です。
まさか素手で殴るなんて思いませんでした。
それは圧倒的で一方的でした。
我は何度も命乞いをしました。
「お前が奪った民の命は、こんなもので足りない」
姫は笑って我を殴りつづけました。
我は側室の傀儡だったのです、彼女に操られていたのです。
虫けらのように這いずりながら、足を掴もうとして踏み躙られました。
かすみゆく眼で見上げた姫のパンツが我の最期にみた光景でした。
以来、パンツをみると
女性とまともに付き合うことはできないでしょう。
でもよいのです。
ハーレムなどつくっていたのは義務にすぎません。
心から愛した人はいませんでした。
いかにも傲慢そうな俺様口調もあらためました。
悪事などはたらいたら、あの王女が来るかもしれません。
どこかで読んだ小説の悪役令嬢のように、謙虚堅実をモットーにして生きていきます。
さいわいにして赤ん坊からのスタートではなく、高校の新任教師という設定のようです。
スーツの着こなしはこれでよいでしょうか、ネクタイはまがっていませんね。
鏡でみた我は細身で紫がかった髪をした中々のイケメンでした。
色白で目に隈があっていささか不健康そうではありますが、魔王だったのですからしかたがありませんね。
初授業です。
さあ、頑張りましょう。
――。
我は緊張で生徒の顔がよくわかりません。
けれど、真ん中の席の少女だけはべつでした。
我はへなへなと床に座り込みました。
なんと、我を撲殺したあの
てっきり、我をいじめるため追って来たのかと、恐怖のあまり失禁してしまいました。
そして、気を失ったので後のことは覚えてません。
我は部屋の隅に膝を抱えて
3日くらい何も食べていませんが、外に出る気になれないでいます。
最初が一番肝心だというのに生徒達の前で、あんな醜態をさらしてしまいました。
何よりもかによりも、あの少女が恐ろしいのです。
――我は、もう学校にいけません。
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