ノーマネー※
不思議だった。それは、この世界の環境だとか、神秘的な光景に対してじゃなく。それは──そう、自分の考えの変化。
この異世界に降り立ち、手違いで転生(しかも、赤子からとかじゃない)。
初めはイライラしていた。自分でも分かるぐらいにリュシエルに対して人生を台無しにされたと言う八つ当たりをしていた。
正直、俺一人で誰も何も知らない土地で生きて行こうと思っていたんだ。
期待を持たせるだけ持たせてそれかよ……と。
でも、あの切なく儚げな表情を見て、父を慕っていた姿を見て、なによりそんな彼女も今、俺と同じ地に降り立っている。
いくら気が強くたって、プライドが高くたって、一柱として取り残されるのは辛いし怖いはず。
何故か、俺のこれからの人生を考えなくちゃいけないはず、なのに、彼女の今後を考えている自分が不思議だった。
だから、
その為にも──。
「まずは、宿と服を探すか」
ここに来て初日、大陸の情勢などは知る事が出来たが、まだまだ知らなきゃいけない事もあるしな。
リュシエルも、俺の意見に賛同したのか頷く。
「そうね。それがいいわ! ──それと……その」
ん? 何故言葉を詰まらせる? 言いたい事があるなら言えばいいじゃねぇか。今更、遠慮するような性格でもないだろーに。
俺は、なるべく刺激をしないように、風のように極自然にさり気なく小さい声を出す。
「ん……どした??」
「えっと────」
その声は、行き交う喧騒に掻き消され、俺の耳に届く事は無かった。けれど、下を向き、小さい口を動かしたリュシエルは勇気を振り絞ったのかもしれない。世界は無情にもそれを拒んだ。
答えを突き止めるのは簡単だろう。もう一度聞けば言い話。でも、解を待つように下を向きつつもチラチラと視線を恥ずかしげに送られては聞くに聞けない。
そんな事を思い、考えつつ俺は話を逸らした。
「取り敢えず、洋服屋の場所とか聞くか!! な?」
自分でも分かる。これは、下手くそな逸らし方。言った後に押し寄せた後悔はリュシエルの下を向き目を伏せた表情を見てからだった。
「そう……ね、それがいいわね……」
日も暮れて、冷たい微風が体に吹き付け、ギクシャクとした空気がより一層凍えた感じがしてしまう。
疎らに灯り始めた街頭は、そんな哀れな俺達を照らすように光る。
隣に並んで歩いていた筈のリュシエルは、今はもう後ろをついて歩くのみ。会話もなければ笑顔もない。あの時の様な曇った表情で歩き続けていた。
あの時、リュシエルは一体何を……。
でも、まあ、着たい服を買って美味い飯を食って宿に泊まって疲れを癒せば何か変わ……あ。
俺は重大な事に気が付き立ち止まる。
自分でも分かる位に冷や汗が凄い。悪寒が走るとはこの事を言うのだろうか?
ただ、これは生きていく上で最も重大だ。
これは、ギクシャクとか言ってられない! と、振り向くと若干距離がある場所でリュシエルも立ち止まり目は合わさずに口を開いた。
「な、なによ??」
相変わらず元気のない声。
「い、いや、さ? リュシエルってお金……ある??」
女性に金を集る男とか最低だろ……。でも、ほら、協力って大事だしさ! なんて自主正当化なんかしていたらリュシエルは反応を示してくれた。
いや、助かった。流石女神。そりゃ、あるよね──これで無事……
「無いわよ。ある訳ないじゃない。私は導く女神よ?」
「はは、ははは……ですよねー」
いや、まいった!! これは本当にまずい! 十五歳で路頭に迷うとかなんのイベントだよ! そら、そーだよな。
RPGなんかは、大体が自分の村から始まって、村長に頼まれてお使いに行ったりしてお小遣い貰うんだよな。
だが、思うんだけどさ、鋼のブーメランは高すぎだよな。と、言っても頑張って貯めて買う鋼のブーメランが良いんだけどさ!
はじめの雑魚キャラを、あれでバッタバッタ倒すのが好きな時期がありました。
「お、リシャール!! クロエ!! やあっと見つけた!!」
「まあ、じゃああれだな。こりゃ、コーバッツさんに事情を話して一晩泊めてもらうか──もしくはお金を借りよう。ダメ元だが……それでいいか??」
「ええ、私は別に構わないわよ。そうと決まったら早く行きましょう。流石に寒いわ……」
「……だ、な」
俺達は、来た道を引き返して戻る事にした。稼ぐ宛も何もかもわからない状態なら仕方が無い。ただ、人の縁と言うのは大切だな。コーバッツさんならば、助けてくれそうな気がする。
「あれ? おい!! リシャール?? クーロー!! ェ!!」
なんだ、さっきから。待ち合わせならもっと小さい声でだな。周りの目を気にしないとか恥ずかしすぎるだろ。
──て、あれ? リシャール??
「リュシエル、なんかお前を呼んでね??」
「は? 私はリュシエルよ? リシャールなんか」
「いや、元々の名前だよ」
俺は、来た当初。朦朧とする意識の最中にリシャールと言う名前を聞いていた。それに確か、リュシエル自身も言っていたと記憶している。と、なるとこの嬉しそうに呼び止める声はリュシエルが言っていた水を汲みに行ったと言うラハルなのだろう。
仲間同士で惹かれ合う何かがあるのか……。すげぇファンタジーチックだな。日本じゃまずねぇな。
俺が声の方に振り向くと、爽やかな青い髪をした男性が意気揚々と走ってくる。見た目は本当にイケメン。長い青髪は上手くセットしており、目鼻立ちは外人並にしっかりしている。オシャレに、右耳には二つのピアス、首元には何かを象ったシルバーのネックレスをしており華やかさをだしているし。身長は百八十はありそうだ。明らかに俺より、身長は高い。そしてモデル体型とか爆発しろよ。
だが、なんだろうか……。初めて見た気がしない。前世(元冒険者)の記憶と言う奴だろうか……。
走ってきた男、多分ラハルは徐々に失速し目の前で立ち止まった。
「いやいや、シカトはなしだぜ!!」
──ッて、あれ?
「目線の高さが一緒??」
思わず、心中を吐露してしまった。だが、明らかに俺より身長が……はっ!
「ははは、何を言ってるんだよクロエ。まだお前の方が二センチばかり高いだろ??」
そうだった! この体は違うだれかの……。って、あれ? そう考えると、リュシエルもそんな身長低くねぇんじゃね??
くっそ!! まるで、時差ボケした感覚だ。いや、海外とか怖くて行けないけどさ。
「まあいい。所で二人のその格好をみるからに……派手にやられたみたいだな??」
さすが、冒険者。一目で起きた事をわ──。
「あれ!? お前……」
「はははっ!! そーなんだよ。俺もカリュプススライムにな?? 水を汲みに野川に行ったついでに体を洗おうと鎧を外したら、そこをペロリンとな?? んで、治安自治管理局に捕まったッてわけ! いや、本当にすまん」
ど・お・り・で!!
見たことあるって、そりゃあるに決まってる。目の前のラハルは俺達と同じ格好をしてるんだから。と、なるとコーバッツさんざ言っていた男性がラハルに当たるんだろーな。
なんて偶然! つか、こんな偶然勘弁だよ!!
しかし、何も気にしてない様子のラハルは、後頭部に片手を添えながら爽やかな笑顔でい続けた。
布を身にまとい裸足の三人が路上で立ち話をしているのだ。そりゃあ、世間の目も冷たくなりますよね。
しかも、もしかしたらお金持ってるんではないかと思ったが、こんな状況じゃある筈もないよな……。
やはり、ここはコーバッツさんに頼むしか──。
「ね、あなた。お金もってる??」
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