メタルなあれは強すぎました

 乾いた土は“ザッザッ”と歩く度に土煙が舞う。日本とは違い道路補正が全くされておらず、ボコボコとした道のりも余計に体力を奪われる。そんな中で、裕也はとある事に気が付き、立ち止まった。


「な、一ついいか?? ちょっと思ったんだけどな??」


「え? 何よ。私は諦めないわよ」


「──はあ。ちげーよ。そんな事じゃなくてさ? なんでコイツはこんな動きにくい分厚い装甲の鎧を羽織ってんの?? 筋力のバロメーターから考えるに無理があるんじゃね?? マジで息が上がって仕方がない」


 リュシエルは、吟味するように体を隈無く見つつ鑑定士顔負けの渋い顔で腕を組みながら裕也の目を見て言った。

 身長差で、多少上目遣いになる部分は可愛いと思いながらも静かに意見を聞き入れる事に務めた。


「そうね、転生して一からだとしても体に関するモノは受け継いでいるみたいだし……。まあ、これは女の勘だけど……」


 腕を組み、暫く黙るリュシエル。ただならぬ緊張感に思わず喉を鳴らし、黙考する様子の女神を見つめた。

 この体には秘められた力があるとか、龍の遺伝子が体にはあり、竜騎士ドラグナーとしての実力があるとか。

 ゲームで培った知識が頭を駆け回る。もう、興奮は絶好調。そんな調子で見た鎧も真っ白いしよく見れば神々しく感じてきた。

 これはもう、そうでしかない。こみ上げる興奮を喉で必死に殺しながら、冷静を装いつつも答えを急かす。

「お、おい。なんだ? 秘められた何かがあるのか??」


「ん? そうね……。あんまり言いたくないのだけれど……」


 ──なんだよ! なんで、そんな悲しそうな目をして顔を背ける? なんだ、この体には何があるんだ??


 裕也は、生唾を飲み込みながらも興奮で心臓はバクバク。


「えっとね??」

「おう、なんだよ」

「うん……。単なる」

「単なる?」

「見栄っ張りだったんじゃないかしら? 流石に筋力との比率があってないもの」

「ふむ……。良し、脱ごう捨てよう」

 

 ──クッソ! なんだよそれ!! 見栄を張って鎧なんか羽織るなよ!! つーか、そんな調子だから殺らるんだよ!! 本当ふっざけんなよ!! こっちの身にもなれっつーんだよ!



 怒りに身を任せ、脱ぎ捨てようと裕也は“ガチャガチャ”と鉄を忙しなくならしながら腕を色々な所に回す。が、直ぐに動きは止まる。


「はあ、はあ、重いせいで倍に疲れる……。所でリュシエル」


 腕をダランとさせて満身創痍な裕也は、木の枝か何かで出来たであろう杖を暇なのか“クルクル”回し遊ぶリュシエルを呼ぶ。

「うーん?? 何よ??」

「いや、な?? これどうやって外すの?」

 そんな知識、裕也にあるわけが無い。

 部位の名前は知っているが、手甲ゴーントリットは何処の金具で止まっているのか。#肘当コーターは、どんな仕組みになっているのか。全く分からない。


 名前の知識があっても、活用する知識は平和な日本では必要がない。


「──え? そんなの知るわけないじゃない」


「ですよね……」


 ──でも、もしかしたら知っているんじゃないかと期待していた時期が僕にもありますた……。


「じゃあ、やはり村か街にある武具店で外してもらう他ないな」


 ため息一つ零し、ならばと彼方に小さく見える街か村を裕也は見つめる。

 距離はまだ結構あり街頭は見当たらない平地。だが、日がまだ高い場所にある為に心には余裕をもてた。

 これが、夏だったのなら今にも鎧を剥ぎとりたいと思っていたに違いないが過ぎる風や涼しい気候からするに夏ではない。

 何方かと言えば春に近いのかもしれないだろう。

「ね、裕也。でも、少し思ったのだけれど……。ラハルは待たなくていいの??」

 首を傾げ、先に進もうとした裕也を引き止めるリュシエル。

 そこに、気を使えるならもっとほかの所に気を使えと言いたい気持ちを我慢して裕也は死んだ目でリュシエルを写しながら言った。

「だって、俺そいつしらねーし。ラハル? なにそれ。動く城かなにか??」


「あなた……って意外と冷たいわよね……」

「喧しい!! もう、行くぞ。本当に重いんだから」

「ねえ! 裕也!!」

 進もうとした裕也をまた引き止めるリュシエル。もう勘弁してくれと、頭を掻き力強く足で地を“ダン”と踏み鳴らして大きい声で言った。


「だあ!! もーなんだよ!! 俺はこの鎧いをは──」

「違うの!! なんか、気持ち悪い魔物に見られてるんだけれど……。気持ち悪いんだけれど……なんとかしてよ!!」


 指を指す先を見るとそこには小さい塊が無数に近寄ってきていた。

 鼠色をして、日に当たると眩しく反射する。形、大きさは六十センチ真四角程で、天辺からは赤いイソギンチャクのような触手をウニョウニョさせている。加え可愛らしい目は無い。が裕也は叫ぶ。

「うっひょー!! これは見るからにメタルなアレじゃん!! よし、リュシエル。こいつは絶対倒すぞ! そして経験値を千ゲットだ!!」


「経験……は? なに、訳分からない事をって、あ、ちょっと待ちなさいよ!!」


 “ボコん・ドスン・バカん・ゴツン”

 ありとあらゆる鈍い音が響く。無論、これは体術を用いた裕也が織り成す音ではない。

 満身創痍で、フラフラと顔面ボコボコで戻ってきて裕也は心中を吐露した。

「な、何あいつ。何で、あんな好戦的なの? いつもは臆病ですぐ逃げるくせに……」

「はあ、あなたが何を言っているのか理解したくないわ。もう、ちょっと待ってなさいよ」


 リュシエルは、ため息混じりに杖を刺すと詠唱を始めた。

 座り込み、膝に肘を置きながらリュシエルを見ると輪は白色をしていた。

 どうやら、発動魔法は、白魔法か無属性の魔法といったどころだろうか。


「全ては世の理。全ては世の習い。全ての真実をさらけ出せ! 真実の目ヴィレーナ!!」

 ──お、おお。


 真四角の魔物が居る上空に白色円形上でヒエログリフが刻まれた魔法陣みたいなものが展開。

 その魔法陣は、ゆっくりと降下し何事も無く魔物を通り過ぎた。


 ──それもそうだろ、メタルなアレは魔法効かないし。


 だが、リュシエルは冷静な表情で、さながら冒険者の様に小さい口で堂々と口にした。


「見えたわ。そして、分かったわよ奴の正体が。名前は、カリュプススライム。好きな物は鉄鉱石と、女性の柔らかいに──え? ちょ!!」


 伸びた触手が、呼吸を置く前にリュシエルの足首に巻き付く。

 なす術なく、空高くに舞い上がったリュシエルの体には触手が縫うように履い回った。服は酸に負けてなのか、見る見るうちに溶け始める。そんな中で、リュシエルは必死に女らしい声で叫ぶ。


「ゆ、ちょ! 裕也! た、助けなさいよ!! いや、やあ! ね、 え、ちょ! きもちわる……やぁあ!!」


 “ヌメヌメ”とした、ナメクジが這ったあとのようなテカリがリュシエルの赤らめた顔や太もも脇を光らせてゆく。


 ──いやあ、でも触手に弄ばれる幼女というのもなかなか……。


「ちょ、変態な目で見てないで助けなさいよ!! 食べられちゃうじゃない私!!」


「は、やだよ。殴られんのかなり痛いもん」


「──え? ちょ? ねぇ、友樹祐也さん!? 嘘ですよね!? ねぇ!?」

リュシエルは、そのままイソギンチャクの中へと吸い込まれていった。どうやら、消化器官自体が露わになっているらしく。

リュシエルは、イソギンチャクの上で悶えていた。

「いやあ、もう、やあ……」


「たくもう、仕方ねぇな……」


裕也は、カリュプススライムを正面にシャトルランの格好をすると、ニヤリと怪しい笑を浮かべる。

「絡まれた時に培った力を見せてやるぜ……。名付けて、見てません知りませんごめんなさいダーッシュ!!」

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