最初から無理ゲー
──うーん……んんん……。ヒジョーにまずいよな。隣でやたら滅多ら魔法をバカスカバカスカ打つ女神はアテにならねぇし……。
叫んだ体力を回復する為に、裕也は仰向けのままこの先の事を考えていた。
そんな事は知らないであろう今はリシャールと言う女性に宿った女神リュシエル。
はしゃぎながら杖を地面に刺して楽しそうにひたすら裕也に話を掛けていた。
「ね、ね、裕也? みた?見たわよね?? ヤバイ楽しいんですけど!! 魔法を使った後は多少なりとも脱力感があるけれど……でも、この爽快感は堪らない!! 次はねぇ──」
「曇天に射す孤高の
杖に手を翳し、詠唱のようなモノを行うと、ボロボロの法服は“バサバサ”と踊り狂う。そして、淡く黄色い光の輪が足元から上にかけてリュシエルを包む様に何個も生成されて行く。
先程から横目で見ていた為に分かるが、この前兆とも呼べるリングは、属性に寄る所があるらしい。
要するに、炎なら赤い光の輪。水なら青い光の輪。
そして今回は光属性の何か、と言った所だろうか。
裕也は、呆れ気味に目だけをリュシエルに向けていた。
すると一対の雷が、龍の如く地から舞昇り、空高くから再び地にめがけて襲い掛かる。
“バチバチ”と迸る電流音が唸り猛る龍そのものだ。いや、龍の鳴き声とか実際しらないけど、裕也の中では龍でしか無かった。
──くそっ、なんだよそれ。カッコイイじゃん。
俺だって使いたいじゃん。
厨二心は俄然燻られて行く。だが、そんなハシャグ姿をこんな女神に見せては恥でしかない。と、大人である事に務める十五歳。
そんな裕也は、興味あるけど興味なさげに言った。
「あー、すごい凄い。楽しそうで良かったよ」
──俺は、どうせなら初めから冒険をしたかったよ!! まじ誰だよパル〇ンテを唱えた奴。あ、コイツか。
「でも、見るからに高等魔術だよな?? そんな魔術を使えるのに負けるって、そんなに強いやつなのか??」
“ムクっ”と、体を勢い良く起こし、何食わぬ顔でリュシエルに問うてみると目を綴じ、口を尖らせた。
「──プッ」
──ん? なんで今コイツ笑った??
「プププッ。違うわよ、これは私の習得した技よ!!」
「えー、そーな……今なんて?? ちょっと詳しく」
すると、リュシエルはイヤラシく口角をあげ、悪代官のような悪い表情で座る裕也を見下しながら言った。
「なになに? そんな知りたいのかしら? 私ってやっぱり、女神としての才能があ──」
「……いいから、早くしろよ」
──早く知識を得て、この女神とはおさらばだ。
「な、なによ。わ、分かったわよ。教えればいいんでしょ!!」
頬を膨らましたリスにも負けないムスッとした表情で“バサン”と目の前にリュシエルは座る。
しかめっ面の涙目をした幼女が目の前には居る。中身はどうあれ、外見は可愛い幼女。
──いや、まじ可愛い。頭撫でたくな──ダメだ、中身がリュシエルじゃ……。
「ちょ、なにあなた勝手に絶望した表情しているわけ?? 私を見て、なんで諦めきった表情になる訳!? ねぇ!?」
「いや、だって……ねぇ??」
「な、何よ!!」
「中身がリュシエルだと、可愛さも半減だなあと」
ついつい、リュシエルが相手だと遠慮なしに思った事をぶちまけてしまう。だが、それでも全く罪悪感は裕也に無かった。何せ、リュシエルなのだから。
「な、何よ!! そんな言い方しなくたって良いじゃないの!! バカ!! アホ!!」
目に力を入れて、法服を“ギュッ”と握りながらリュシエルは涙目で言う。裕也は、何回も泣かしている気もしたが、既にもうめんどくなっていた。
「……う……うっぐ……。な、なによ? 頭に手を乗せて、馬鹿にしてるの??」
「はいはい、いいから。早く教えてくれ」
小さい頭に手を乗せて、柔らかい髪の毛を感じつつ裕也は頭を撫でる。
すると、リュシエルは一瞬表情を崩し蕩けさせるが、直ぐに切り替えいつもの調子で裕也を指指し言い放つ。
「えへへ──。んんんっ!! と。何よ、良かったわね? 女神である、あ・た・し! の頭を撫でられたことを誇りに思いなさい!! そして、まだ撫でてていいわよ!! 特別に許すわ!! あと、そうね。私も地に足を着いた事だし一柱じゃなくて一人として崇めなさい!!」
手を離し、自分の胸まで腕を持ってくると“ガシャ”と音を立てながら腕を組んだ。
「いや、もー良いわ。それより早く」
リュシエルは、その姿を見るなり肩を落とし“シュン”と哀愁を漂わせるが、弱々しい声で裕也の問に答え始めた。
「──っえ?! そ、そう、よね。良いわ、教えてあげる。
どうやら、転移じゃなくて、転生になってしまったけれど……。文字通り、転生。生まれ変わりは成し遂げられてるみたいなの」
「ん? となると??」
「だから、ね? その人の生きた途中で能力値とかは全て壱からなのよ」
「要するに、今の俺はレベル壱状態だと??」
リュシエルは、首を傾げキョトンとした表情で言う。
「だから、そう言ってるじゃない。何かあるの??」
「いや、色々とあるんだが……。此処は場所からしたらどこら辺なんだ??」
「此処は、旅たちの村と魔王が住む島との中間辺かしら?? ラハルが言うには……ね??」
友樹祐也は冷静に考えた。
──誰かの体に人生途中から転生して。尚且つレベルは壱。
剣の振り方も魔法の使い方も、この世界での身の振り方も分からないこの状況……。
「初っ端から無理ゲーすぎんだろ!!」
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