俺のプロローグ返して
──なんだ、つか誰だコイツ。
目の前に居るのはリュシエルとは異なる女性。それもそのはずだ、あの女神が言うのなら此処は異世界。そして、裕也はその真っ只中に居る事になるのだが……。
今の状況がまったく把握出来ずにいた。ボロボロに裂け、服の中心には十字架の刺繍がされた赤い法服に身を包み、さながら賢者の様な格好・甘栗のような茶色い髪・茶色い瞳・ハムスターの様なツンとした可愛い小さい鼻。
小動物のような可愛さで、見るからに幼女だ。だが、口ぶりからするに残念ながらリュシエルに間違いはない。
何故リュシエルが居るのか、ここは何処なのか、今どんな状況なのか、何が起こっているのか、頭がパニック。ぱにパニパニックの中、裕也はもう一度、血だらけの手を瞳に写す。
──なんだこれ、つか、俺って誰だ。
裕也は、自分自身を見ることは出来てはいないが全くの別人に変わりはない。真っ赤で刺々しい短髪・細い眉に勝気な赤い瞳・鼻筋は綺麗に通っており肌は小麦色と健康的。加え血だらけ。
ただ、ここで厨二で手に入れた能力が輝く瞬間だった。
どうやら、格好は西洋の鎧。
瞳に写るのは
ただ、それは間違いなくこちらに来る前に装備をしたとかではない。
──何よりも、痛いし重い。
腸を裂かれた事は無いが、こんな痛みなのだろうと勝手にイメージ出来る程の激痛に意識が飛びそうになる。
──ヤバイ、絶対ヤバイ! 来た瞬間に死ぬとか洒落になんねぇぞ……!! おい! 本当に死亡フラグってあんのかよ! パラメータが怖ーよ!!
周りに気を配る事も出来ず、寝転んでいた裕也の瞼は閉じたくない意思に反するように閉じ始める。
そんな遠のく意識の中で、声が聞こえ続けた。
「おい! リシャール!! 早く
聞いたこともない、荒々しいくも逞しい低い声。そんな彼が裕也を必死に助けようとしている。
「ちょ!! 人間!! 気安く触らないで頂戴!! と言うか、私の名前はリシャールじゃないわ!! リュシエルよ!! それに、スタビリスッて何よ!! どっかのカフェか何か!?」
これは、きっとリュシエルだろう。
暗闇の中で、裕也は想像しながら頭の中で笑う。
──って、それは、スターハックスだろ……。全く笑えね……な……。友樹祐也……十五歳、高校デビュー叶わず彼女なしは異世界に来て数秒で幕を──。
それから、どれぐらい気を失ったか。いや、死なずにさ迷うことが出来たか。良くも悪くも、麻酔が切れた体の如く激しい痛みに顔に皺を寄せながらも裕也は目を覚ます。
見上げた青空は、何も無かったように凪いでいた。心地よい空気は痛みを多少なりとも紛らわせ、その余裕は他の方へと意識をずらした。
後頭部から首元にかけて感じる柔らかい感覚。加え、視界に写る目を瞑った女性は見慣れない顔であり、さっき初めて見た顔。それらの事から予想するに、
「ひ、ひざ枕ッ!!」
思わず飛び起きると、こじんまりと正座をしていたリュシエルが“ボヤボヤ”と目を擦りながら八重歯を覗かしつつ欠伸をした。
「ふぁーあ……ッ。あら、起きたの?? どう、体の調子は??」
そう言えば、と裕也は再び体を見渡す。
真っ白い鎧についた夥しい血は生々しい。が、それを除いて何も違和感はない。痛みで目を覚ましたにも関わらず、その痛みすら無くなっていた。
裕也は、あまりにも不可思議な出来事に“ガチャガチャ”と金属音を軋ませながら何度も見ているとリュシエルは満足げな表情をドヤ顔で作り上げながら言う。
「フフン。感謝しなさい! 私が有能なお陰で裕也は助かったのよ!? 分かる!? 命の恩人なの!! どう? 神々し──」
歓喜極まってだろうか、ドヤ顔に留まらず小さい体で立ち上がると、両手を腰にやり仁王立ちをする。
が、裕也は冷静に突っ込んだ。
「そもそも、転移はどうなったんだ??」
「……ギクッ」
──コイツ、今わざわざ声に出したろ。
「さっき、さり気なく瀕死だったこの体に向かって『ごめん、間違えた』とか言ってなかったか??」
「……ギクッ」
リュシエルのドヤ顔は引き攣り顔に変わり、突き上げた口角は“ピクピク”と痙攣していた。
「お前、俺に話すべき事があるんじゃないか??」
すると、何かが崩壊したのかリュシエルは裕也の首元にしがみつく。
「ねぇ! どーしよ!! どーすべき!! なんで、こうなっちゃったの!? 何を間違えたの!!」
意外と強い腕力に、異世界の戦闘力を感じつつも振りほどく。
「まっっ、てって!! そんな事を俺に言われても分からねぇだろ! ちょっと冷静にな……」
自分で言いつつ、自分が冷静になり思い返す。
──確かコイツ、あの空間でサラッと問題発言してなかったか?? 初めてがどうのとか、高等がどうのとか……。
「な、なあ? 今の状態ってどんな感じなの??」
「んぁ……。水を汲みに行ったラハルが言うには出てくるはずもない弩級のファエドラ? と言う魔物に襲われたみたい」
ファエドラという物は少し気になりはしたが、そんな事を知りたい訳では無い。何故、身につけてもいない装備をしており、そして外見が全く違うリュシエルが目の前にいるのか。
それが嫌な予感として、裕也の胸を“チクチク”と突っつき続けた。
「いや、そんな事じゃなくて、俺の今いる状況だよ」
リュシエルは、言いにくそうに指と指をくっつけモジモジしながら細々と小さい声で言い始める。
「転移じゃなくて……その、一度、死んだ体に転生しちゃったみたい……」
──まじかよ!! 異世界の事も分からないのに人生途中から始めるとか難易度高すぎだろ。なんだよ
裕也は、項垂れながらも仰向けに寝転ぶ。
伸びた野草が耳を擽り、大空には鳥たちが気持ち良さそうに羽を広げ飛び交う。
まるで、選ばれし勇者が冒険を始める第一歩のシュチュエーションだ。
「って!! 全然プロローグじゃねぇじゃん!! もう、何回冒険の書に記録してんだよ!! なんだよ、嫌がらせかよ? 殺がらせかよ!! 新しい始まりどころか、死んで、死にかけた状態のスタートとか何処のもの好きだよ!!」
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