● 08.32

 からん、麦茶の中の氷が揺れる。

 ちりん、と涼風と風鈴の音。

 橙色が硝子を反射する。

 止まった秒針、動かない短針。

 つぅと滑った水滴が机上に円を描く。

 青空は消えて、宵にはまだはやい。

 3年前で止まったカレンダー、印のついた15日前。



 あの姿見に映るのは、きっと全て幻だ。

 群青の瞳、白いワンピース。

 靡く黒髪は1cmだけ伸びていたから、13mm切ろうと思う。



 何も切れないカッターの刃は偽物で、空間と時間だけ切り裂けた。




 晩蟬ひぐらしは終わりしか告げてくれないから、続きなんて知らなかった。



 空っぽのラムネの瓶、底に沈んだビー玉、甘温い記憶が溶ける。

 炭酸の抜けた液体をあおっただけの




 その日、確かに8月が死んだ。

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