○ 雪の“約束”

「………うん、うん、そだね。うん……楽しみ……じゃあ、そろそろ切るねー。…ん、おやすみーまだ寝ないけどね」

 笑いながら言って、電話を切る。

 ケータイをベッドに放り出し、ついさっきまでしていた会話を思い出す。

 きっかけは、きっと今日の天気。

 今日は、少しだけ雪が降った。たぶん、きっと初雪。

 ちょっと嬉しくなって、テンションが上がってしまったのは、自分だけじゃないようで。

 軽やかにベルが鳴るケータイを耳に当てると、聞こえてきたのは友達のはしゃいだ声。

『今日ね、学校行ったらね、わりと雪、積もってた!』

「えー、いいなー。そっか、そっち山の方に学校あるもんねー」

 そんな、他愛もないことを話している内に、札幌の雪まつりの話になった。

 他の人はどうか知らないけれど、自分たちにとって札幌の雪まつりといえば、好きなキャラクターのイメージなのだ。

『雪まつり行きたい』

「行きたいねー」

『いつ行けるかなー?んー………卒業旅行でもする?』

「いーね、それっ」

 それから、また、なんてことない話をしばらくしていた。

(雪まつりってたしか、2月だったよね……3年生のそのくらいになると、ほとんど学校に行かなくてよかった気がする……)

 ベッドに放り出したケータイをちらりと見て、友達と卒業旅行に行っている、なんて勝手な妄想をしてみる。

 それは、いつ果たされるとも知れない“約束”。

 もしかしたら、その未来は来ないのかもしれないけれども。

 でも、それでもいい。

『2月、雪まつり、札幌、卒業後』

 単語を並べるだけのメモをして、窓の外を見る。

 真っ暗な夜の中、静かに白い欠片が舞っていた。

 濡れた髪をそのままに、ベランダに出る。

 冷たく凛とした空気が髪を撫でた。

 そっとベランダの柵の向こうに手を伸ばす。

 ふわりと、雪がその手に触れた。

 体温ですぐに溶けて無くなってしまったけれど、それを包むように手を握る。

「──楽しみ、だな」

 呟いてみる。

 とたん、身体の中から言葉にできないような、わくわくした気持ちが湧き上がってきた。

 寒かったけれど、そのときはそんなこと忘れていた。

 ただ、不確かな未来の、不確かな約束に想いを馳せて──。

 白い息が雪の夜に溶けていく。

 わくわくした気持ちのままに、唇を笑みに形作る。

「楽しみだなぁ……っ!」

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