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まっかなきょうしつ

なんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだなんだ



俺ははただただ立ち尽くしていた。



眼前の光景はまともな思考能力を奪い、どんな行動も実行に移せなかった。



周囲を埋め尽くしているのは、真っ赤な絨毯、えずくような死臭、生ぬるい液体、そして静寂。



目の前には、一目で死んでいるとわかる、かつて級友だった人間たちの肉体が転がっていた。



日常と乖離した知覚情報は、疑問だけを無数に生み、それらの処理が追いつかないために次の動作ができず、悲鳴を上げたり腰を抜かしたりすることすらままならなかった。


やがて、教室内部にくぎ付けにされた目が、動く影を捉えた。反射的に視野を移す。

それは、セーラー服を着た人物だった。うなだれていて顔は見えない。

それが誰か理解するより先に、俺の目に飛び込んできたのは、無造作に垂らした両腕からびちゃびちゃと滴る血だった。

左手に、なにか丸いもの、赤くて汚れていてよくわからない、わかりたくない何かをぶら下げている。


やはり、俺の脳みそは何一つ理解できなかったが、もっと体の芯の方で本能が叫んだ。


俺は踵を返し、脱兎のごとく逃げ出した。


後ろを振り返る余裕はない。不整脈のような心臓と過呼吸のような肺を無理やり酷使して、災厄から少しでも遠ざかろうと、必死で走った。


なんの音も追ってこない。というか、辺りはほとんど物音がしなかった。

本来なら、今は夏休みの最中で、教室棟に用などないはずだった。赤点による補習授業などなければ。


俺は、テスト勉強のサボりに対しては重すぎる代償に、ひたすら過去を悔いながら走り続けた。たまに人声が聞こえてくるが、危険を伝えようとする暇もなかった。


無我夢中で逃げていると、玄関ホールにたどり着いた。重いガラスドアを殴るように開けて、校舎の外にまろび出る。そこで、ようやく後ろを振り返ることができた。


なにも追ってきてはいない。


それまで心肺機能に回されていた血流が、ようやく頭に戻ってくる。


あの光景に名前を付けるなら、まさしく大量殺人。それもこの学校の女子生徒が引き起こしたらしい。間違いなく、警察案件だ。


110番しようとして携帯を取り出したとき、殺人鬼の容姿が浮かび上がる。女子生徒の頭には、何か不自然なものがついていたような気がした。


何かがひっかかり、発信番号を押す俺の指が止まる。

その時、上から破砕音が降ってきて、つられて顔を上げる。



上空に、破片のきらめきと、影が浮いていた。


俺は驚異と恐怖で身動きができなかった。


浮いていたのは一瞬だった。それは次の瞬間には、割れたガラス片と血まみれの女子生徒となって、落下してきた。


逃げることも避けることもできずに、落下物と衝突した。

しかし、痛いとか怖いとか感じるどころではなかった。


「あっ…カッハッ……」


背中をしたたかに地面にぶつけ倒れた俺の上に、女子生徒が馬乗りになった。喉を強い力で絞められ、声と息が詰まった。食道をつぶされる痛みにえずきそうだったが、喉が開かないので咳き込むこともできない。


次第に視界がぼやけてくる。霞んだ目で見えたのは、入学式以降登校していなかったクラスメイトの顔と、その左のこめかみ辺りから伸びた黒い角だった。


意識が、遠のいでいく。



突然、体が軽くなった。酸素をむさぼるように喘ぐ。

人気ひとけを感じ、なんとか体を起こした。


すぐそばに、誰かが立っていた。

全く見覚えのない人間で、真夏にもかかわらず黒いロングコートを羽織り、フードを目深にかぶっている。

その人物は大きく足を開き、わずかに上半身を反らしていた。視線を反対方向に移すと、俺を絞め殺そうとしていた女子生徒が、地面に転がっていた。


「ウウゥ…ゥ…」


どうやらぶっ飛ばされたらしい女子生徒が、苦し気に唸っている。

しばらく動かないのを見て、今度はコートの人物が女子生徒に歩み寄る。

すると、女子生徒はよろよろと立ち上がろうとし、コートの人物に抵抗しようと歯をむき出しにして唸った。


その女子生徒の右頬に、こぶしがめり込んだ。女子生徒はもんどりうって倒れる。

コート姿の動きは緩慢だが、その攻撃はかなり重いらしい。女子生徒は昏倒した。


コートの人物はポケットに右手を突っ込むと細長いものを取り出した。先端のキャップを外すと注射針が出てくる。倒れた女子生徒の元に屈みこんで、振り乱れた髪をよける。そして首元に、注射針を躊躇なく突き刺した。そうして何かを注射し終えると、使い終わったシリンジを再びポケットにしまった。


一体、何が起きているんだ。

俺は何もできずに、ただコートの動きを見つめていた。


やがてコートは振り返ると、俺の方に近づいてきた。俺は地面に座り込んだまま、その人物の顔を見上げた。


その人物は、フードを下ろした。


「大丈夫?」



露になった容貌は、俺がてっきり予想していたものと全く違う、可憐な少女の顔だった。

そして、その額の中心から、真っ白な角が一本生えていた。


「あんた…その、頭の」


俺がそう言いかけた直後、恐怖と、疲労と、安堵のせいで、思考が混濁し始めた。

俺は支えを失った人形のように倒れかけ、それを少女に抱きとめられる。


俺の記憶は、少女の肩に担がれるところまでなんとかもっていたが、すぐに意識は薄れ、気を失った。

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