庭園-ビル街
長閑な草原を二人は歩いた。日差しは春先のような穏やかさでもって二人を包み、柔らかい風が頬を撫でる。適当にその辺へ寝転んで、ぐっすり眠れたら気持ちいいだろうなあと栞は思う。まあでも、もふもふがどこかへ向かっている内は、そっちへ付き合ってあげなければ。少し行っては振り返り、少し行っては振り返りを繰り返すもふもふ。一応、もふもふは命の恩人だし。栞は思う。
草原を真っ直ぐ突っ切ると、整備された小道に出た。石畳のその道は、街の方から伸びてきて、外壁の方へと続いている。外壁方向の道の先には、色とりどりの花畑が見て取れる。その中心には一本の木が立っていて、近くには澄んだ湖畔も見える。ここが雲よりも上の世界とは思えない程に、平穏な光景が広がっている。まるで、絵に描いた水彩画のように整った美しい眺望。栞は見惚れて、脛をもふっと突かれて、ハッとして歩き出す。二人が向かうのは街の方角。隙間から雑草が顔を出す石畳を、こつこつと鳴らして栞は歩いた。
街と草原の境目には、浅い小川と高い塀があった。小川には石橋が渡されていて、栞ともふもふはそこを歩いた。覗くと、小川には小魚や植物が泳いでいた。もふもふ以外のまともな生物を、栞は久しぶりに見た気がした。
小道と塀の接点には、パーキングのようなゲートがあって、でも、かなり廃れているように見えた。ゲート傍に建てられた管理人室には黒い影が居座っていたが、栞ともふもふには見向きもしなかった。二人は折れて落ちて朽ちかけたゲートのバーを跨ぎ、塀の内側――街の中へと入っていった。
街に立ち並ぶ高層ビルは、どれも数十階はありそうで、ガラスの天蓋に押し迫っていた。道幅は広く、しかし自動車の姿はない。黒い影も全く見えず、街は閑散としている。
もふもふは未だ目的地には辿り着いていないようで、明確な意思と共にヒビ割れた道路を進み続ける。栞も続く。
穏やかな時間が暫く続いた。アスファルトはヒビ割れて草を生やし、街路樹は地中を侵食して木の根を地上に晒している。空は快晴で、偽物だけど雲もあって、気候はとても過ごし良い。大きな道路のど真ん中を堂々と歩くというのも、特別な感じがして栞は楽しかった。廃れた景観を見渡しながら、栞は長い時間、もふもふに着いて街を歩いた。
そうして二人が行き着いたのは、地下鉄へと続いていそうな、屋根付き下り階段の入り口。
屋根から吊るされた看板には、『Ri
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