第3話 長い長い旅

「ああ、玄奘三蔵法師の話ね。約二〇年だけど、正確には一二年とも、足かけ一七年かかったとも聞いたことあるわね。まあそれも、途中で立ち寄った先々で、お説教をしてくれと引き留められたり、あるいは天竺の学院で数年がかりで教義を勉強したり、釈尊のゆかりの地を巡礼したりと、あちらこちらと時間をかけて寄り道しているから、時間がかかっているらしいわね」


 玄奘。この時代の有名な僧侶だ。唐の長安から長い長い旅をして西へ向かった。天竺、即ちインドに至り、多くの仏教経典を唐へと持ち帰った。


「ただ真っ直ぐ行って帰って来るだけだったら、そこまで極端な長時間の旅にはならなかったはずよ。まあでも、私たち使節団も、ただ往復するだけじゃなくて、天竺地域の色々な国に立ち寄って外交活動をする予定だし、仏教関連の地も各所視察することになるはずだから、ここ長安に帰ってくるのは、順調に進んだとしても数年後のことになるわね」


「順調にいって数年後、ですか……今が貞観二一年だから……」


 現在二四歳の蒋師仁は鼻の下にたくわえた髭を撫でながら、思わず後ろを振り返った。背後には、今回の使節団の構成員が四〇名ほどとその二倍以上の馬と駱駝が連なっている。


 そしてその背後には、長安の街が窺える。旭日を浴びて目覚める悠久の都だ。



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