第2話 天竺への遥かな道

 横目ではなく、しっかりと王玄策の方に向き直って、蒋師仁は張りのある低い声で、心の裡より湧き上がる気概を述べた。


「まあそんなに気負う必要は無いわよ? 天竺なんて、ちょっと頑張って右足と左足を交互に前に出して行けば、そのうち気が付いたら到着しているから。あまり難しく考え過ぎない方がいいと私は思うわよ」


 王玄策は大上段に構えた物言いをした。


 長安の街から天竺までの遥かな道のりは片道で一万里と噂されている。


 ただ足を出して歩いていれば到着できる、といった簡単なものではないはずだ。


「王正使、聞いた話によれば、玄奘三蔵法師が唐から一万里彼方の天竺へ行って、多くの経典を得て無事に帰って来たけど、二〇年にわたる大旅行だったということです。俺には、唐から天竺へ往復するのは、そう軽く言えるような簡単なことだとは思えないのですけど」


 控えめに申し出る蒋師仁の台詞を聞いて、王玄策は腕組みをした。


 胡服に包まれた二つの膨らみが腕組みによって少し盛り上がりを増した。

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