第9話 聖剣デュランダーナ!!
既に日はかなり傾き始めていた。
僕たちは急いで防衛の作戦を練る。
とはいっても、それはごく単純なもの。例の地図を写真に撮って――スマホが役に立ったのはこれが初めてだった――、チェスの駒が置かれた十数ヶ所に魔物を出現させるとネビュラが言ってたから、事前に待ち伏せしておいて一気に叩くっ!!
元腕利きの冒険者のルアンからギルドを通して、街中の冒険者には緊急の通達を出してもらった。
これはホントにルアン
同時に僕は、扉のチートでリアを一度元の世界に戻すことにした。
リアを守りたいってのもあるけど、もちろんこれも作戦のうちで、とっても重要なこと。
「ほら、
「……ホントに作戦なのね? わたしの出番ちゃんとあるのよねっ!?」
「絶対にあるから!」
「わたしが役に立たないからとか、そんなんじゃないのよねっ!?」
「そんなことするわけないよ! だって僕、リアのこと大好きだもんっ!!」
「それもそうね……わかった。信じるわ」
上手くいくかは分からないけど……これは僕なりの、リアへの恩返しなんだ。
打ち明けても良かったけど、僕はまだ黙っておくことにした。
日もとうに暮れ、辺りが紺の闇に染まる頃。
ネビュラの手先の魔物による襲撃はもう始まっていた。
僕は他の大勢の冒険者たちと一緒に、街の東門近くに待機していた。
視界の奥のほう、街がある丘の斜面をごそごそ登ってくるのは、巨大なダンゴムシにも似た魔物の群れだ。
だけど、アスカ率いる遠距離攻撃部隊が、城壁の上から矢の雨を降らせて、見事に足止めしてくれていた。
大声の詠唱とともに超高速で矢をぶっぱなすアスカを、カッコイイなと少し嫉妬もしながら見上げていると。
「おう良かった、間に合ったぜ!! ハァ、ハァ……」
「あれっ、ルアン!? どうしてここに?」
背後から呼ばれて振り向く。
そこには背に大きな剣を担いだルアンが、膝に手を置いて息を切らしながら立っていた。
「ハァ、良かったらコイツ、貸してやる」
「これは……?」
「俺の親父の代からある剣だ。聖剣デュランダーナ。ま、俺は全く使いこなせなかったけど――」
「えっ!?」
度肝を抜かれた。なんでそんなもの持ってるの!?
「見てくれはごく普通の大剣だが、魔法と組み合わせれば、大岩も切り裂くほどに強いらしい。勇者のお前にぴったりだろ」
「うん……」
僕は躊躇いながらその剣、デュランダーナを受け取る。持ってみた感触だけなら、確かに普通かも。
僕は試しに覚えていた呪文を唱えてみた。この剣を持つ者だけが使える、一人用の魔法だ。
「聖なる
すると、それに応えるように、剣は形そのままに巨大化した。
「で、でかっ!?」
ステータスが常人離れした僕でも、かなりずっしりと重みを感じる。
長さは僕の身長の……2倍はある??
刃が月明かりにギラっと反射して、いかにも切れ味鋭そう。
「魔物が出たぞおおーーっ!!」
その時、どこかから図太い男の声が聞こえてきた。
すぐ目の前の魔物出現ポイントに視線を移す。
いくつもの転移陣が描かれたかと思えば、そこからかなり大きな獣が立て続けに姿を現した。
牙をむく三つの犬の頭、ゴツゴツと硬そうな胴体に巨大な翼、そしてニュルニュルと暴れ回る長い尾。
「数は多いが、怯まずにかかれーー!!」
「おおーーっ!!」
気圧されるほどの掛け声とともに、冒険者たちは一斉に駆け出していく。
僕はその場でルアンに訊いた。
「あの魔物は何!? すっげーデカイけど!!」
「ありゃ異形のキマイラだなぁ。ケルベロスとドラゴンと……コブラの混成か。多分火吹くし、蛇には毒あるから気ぃつけろ!!」
「火か……」
「勇者のお前なら大丈夫だ、行ってこい!!」
「うんっ! ありがとう!!」
ルアンに背中を押されて、僕は勢いよく地を蹴った。
風を切るように暗闇を駆ける。
重たい剣を両手で引きずって、一番大きなボス級のキマイラに相対したところで、六つの目がギロっと睨みつけてきた。
「ガヴゥゥゥゥゥ……」
「グルルルルルル!!」
早くも頭のうちの一つが大きく空気を吸い込んで、なにかを吐きそうな予感。危ないっ!!
「渦巻く
足に力を入れて真上に跳び、足下に超局所的な上昇気流をつくる。
その流れに押されて、僕の身体は高さ数メートルまで達した。
キマイラの口から吐かれた炎を間一髪で避けたら、今度はウロコに覆われた灰色の背中に焦点を定める。
次こそはとばかりに追ってくるのは、シューッと舌を出している蛇の頭。
でも、剣にかかる重力を味方につけた僕のほうが速かった。
「食らええええーーっっ!!」
勢いに任せて、聖剣デュランダーナをキマイラの背に、全力でガツンッ! と突き刺すっ!!
「
同時に僕は、また別の呪文を唱えた。
キマイラの胴体を貫通して、剣が地面に到達。
その点を中心として四つの斬撃が十文字型に広がり、周りの数体のキマイラまで巻き込んで、スパッと斬り裂く!!
バラバラに剥がされた全てが、轟音を立てて跡形もなく砕け散っていった。
「いやぁお見事。ナイスプレーだ、勇者!!」
隣の陽気な褐色肌の冒険者が、親指を立てて僕を称えてくれた。
「あっ、いえ、ありがとうございますっ!!」
無双するのってやっぱり悪くない。
僕が改めてそう思った瞬間だった。
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