第8話 「カリーナ、君もそう思わないか?」
僕たちが出会ったそのおじさんは、名をルアンというそうで。
ずっとこの街に住む元冒険者で、しかも本人曰くかなりの実力者だったらしい。この街の人の半分以上は俺のことを知っているはずだ、とも言っていた。
それが本当かは知らないけど、僕たちが入った酒場のお姉さんとは、かなり親しい間柄であるように見えた。
テーブル席で四人顔を突き合わせて、まずルアンがアスカに訊いた。
「で、お前が貴重な魔王軍の襲撃情報を知ってるってのはマジか?」
「うんっ! さっき逆探知してね、ちょうど今見えてるの!!」
「俺らにも見せられるってのも本当か?」
「映像化の魔法でたぶんできるよ??」
映像化。その名の通り、思い浮かべた場面を映し出す魔法。
あのステータスボードがこれを応用したと考えると、きっと何もない空間でも問題なくできるはず。
「たぶん、なのか」
「とにかく、やってみるねっ」
アスカはふうっと息を吐いたあと、虚空の一点を見つめて唱えた。
「プロイエ・トゥーラ!!」
すると、やっぱりあの時と同じように、シュッと軽い音がして実体のない画面が現れた。今度は広い部屋を映した、動く映像だ。
赤いカーペットにシャンデリア、平らで透明なガラス窓……どこかのお城??
その部屋には、黒いマントを羽織った、いかにも悪そうな黒髪の男が。
外を見ながら独り、彼は呟きだした。
――フッハッハ……私は今機嫌が良い。とても良い。良すぎるほどだ! 何故か? あのクソ魔王様の世話役から解放されたからに決まっているだろう? クソ話を長々聞かされ、チェスも故意で負けねばならぬ日々、どれほど辛かったか……しかーし! それもとうに終わりだ。自由が訪れたのだ! そう、私がこの手でクソ魔王様を捻り潰す、絶好の機会だ! 魔王軍幹部にして序列第三位ネビュラ、今はこの地位に甘んじてはいるが、この私こそ、大魔王の座に最も相応しい!! フッハッハ……カリーナ、君もそう思わないか?――
彼、ネビュラはザッと振り返る。
が、そこには誰もおらず、返事もない。
「魔王様、信用なさすぎでしょ……」
「誰と会話してるのよ……」
「ご丁寧に自己紹介までしてくれたな」
神経を研ぎ澄ますアスカの後ろから、僕とリアとルアンが小声で感想を漏らす。
――だがそのためにまず、地盤の強化は欠かせないだろう。丁度いい、ストレス発散も兼ねて、今夜ひと暴れといこうではないか。標的は既に決めてある――
そこで映像のアングルが変わり、城壁のある都市の地図が映し出された。
ネビュラはその壁の外側に、チェスの駒をポンポンと置いていく。
――レーテル! 堅固に守られているようだが、私の手にかかれば一瞬にして炎の海となろう。そう、魔力が存在する限り、このネビュラこそが実質世界最強!! フッハッハ……それを今夜証明してみせようじゃないか! カリーナ!!――
「酷いよ! そんなんで街を襲うとか、絶対に許せない!!」
「だからカリーナって誰なのよっ!?」
「っておい、今夜かよ!? マジか、間に合うか!!」
事は急を要する。
レーテルの街に、危機はひたひたと迫っていた……!
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