第7話 レーテルの街へ!!




神速しんそくくうを切り裂け!!」

「ノース・ラピドゥス!!」


 森を抜けて最初の道に戻った僕たちは、丘の上の街、レーテルまで高速移動魔法で超ダッシュ。

 これは、敏捷の能力値を一時的に急上昇させて、身体も強靭化する魔法。

 もともとアスカのほうが値が高いから、しぶしぶ僕が抱いていたリアをアスカに引き渡すと、ちょうど二人で同じくらいのスピードになった。


 歩けば30分はかかりそうな距離を、たった1分で疾走。なんていうか、めちゃくちゃ爽快で気持ちいい!!


 でも、リアのほうはそうじゃなかったみたいで。


「きゃあああああああーーーーっっ!!!!」


 いきなりのハイスピード移動で目覚めて、死にそうなほどの絶叫。

 しかもその前に二人にお姫様抱っこされてたなんて。


「かっ、勝手なことやりすぎなのよっ!! 寝てたからって……それもあなたたちのせいだけど……ちょっとはわたしのことも考えなさいよっ!!」


 あながち嫌でもなさそうに頬を染めるリアから、僕たちはまた、さんざんお叱りを受けた。


「どーもすいませんでしたあああっ!!」

「ごめんなさいっ!!」




「賑やかだけど……なんかみんな暗い感じだなぁ」


 街に着いて、僕はまず率直な感想を口にした。

 冒険者や商人など、たくさんの人々が行き交うメインの通り。夕方近いけど店もあって、いかにも都市って感じではあるんだけど。


「そうね。きっと例の噂のせいで、張り詰めてるんじゃないかしら」


 通り過ぎる人はぶすっとした顔で早足、客引きの声はなんとなくオラついていて、余裕がない。リアの言う通りかも。


 そしてそれとは別に、アスカは街に来てから終始浮かない顔をしていた。

 リアが尋ねる。


「なにか感じるの?」

「うん……小さいのがたくさん混じってる感じなんだけど、その中にひとつ、すんごくおっきいのがあるの。もしかしたら……」

「逆探知、できるのよね?」

「ちょっと時間かかるけどやってみる……ふわっ!?」


 ドンッ、とアスカの左肩が、すれ違いざまに誰かと強く衝突した。

 持っていた弓が、ゴロンと無駄に重い音を立てて地面に転がる。

 振り返ると、相手はガタイのいい、中年でヒゲの濃いおじさんだった。


「いてっ……おい誰だこらぁ! ちゃんと前見て歩けよ!!」

「ごっ、ごめんなさいっ!! わたしですっ!!」

「ああ、悪い、女の子か。……ん?? お前それ……」


 おじさんは目線を二転三転させて、最終的に驚いたような目で僕たちを見ながら、再度近づいてきた。


「えっと……お前ら三人組か。何者だ? 勇者かなにかだろ??」

「はっ! あっ、えっとその――」

「どうしてそう思うのかしら?」


 勇者という単語に反応してしまって誤魔化す僕をよそに、リアが冷たい声で彼に訊き返す。

 彼はアスカの拾った弓を指して言う。


「普通の木のヤツなら、あんな重たい音するはずがねえ。これ、伝説のアレだろ? グリのボス野郎が持ってる」

「えっ、なんでわかったのっ!?」

「やっぱそうか。いや、憶測だったけどな。アイツを倒すとは相当だな、お前ら」


 驚くアスカに、彼はハハッと笑って頷いた。


「俺は若い頃、パーティで何度もアイツに挑んでは負けたから、なんとなく分かったんだ。その歳で伝説の武器を手にするとは、只者じゃねえ。な? お前らは勇者だ」

「えっとそれは――」


 ちょっと勘違いしてるようだから、僕は言い訳を入れようとする。でもそれは、アスカのハイテンションにかき消された。


ダイセーカイ大正解っ!! アスカとハヤテは勇者なんですっ!! ちなみにこの子は女神のリアちゃん!!」

「ちょっ!? わ、わたしまで紹介しなくたって――」

「ハッハッハ!! あんた、女神様ってか! そりゃあおもしれえ!!」


 大きな笑い声が通りに響く。

 周りの人々はこそこそとなにか言い合いながら、僕らの方を見ていた。



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