第6話 「貴様らにこれをやろう」




 ふにっ、ふにっ。

 その白くてすべすべなほっぺたを指で押してみる。すごくやわらかい。


 そして、なんと言ってもこの可愛い寝顔っ!!

 普段は完全に心を開くことなんてめったにないツンデレ美少女の、こんなに無防備な姿!! うっかり顔を近づけすぎたら、勢いでキスしちゃいそうでつらい。

 僕たちの魔法にかかって、どんな夢を見てるんだろう??


 こっちまでも幸せになるくらいだけど、こんなところで寝ると汚れちゃうし、それはそれですごくリアが可哀想で――。


『貴様らがこれをやったのか』

「はっ!!」

「わわっ!?」


 突然の後ろからの声に、僕たちは飛び上がった。

 見ればそこには、僕たちを見下ろすように地面に立つ、巨大な1のグリフォンが!!

 その目線はグッと睨みつけるようで、威圧感がすごい。もしかしてこの展開は……ボ、ボス戦!?


 これっていうのは小さなグリフォンズのことだろうし、僕たち絶対、怒らせちゃったパターンだよね!?


「ど、どうするアスカ!? リア連れて逃げる??」

「あれっ、戦わないのっ? ハヤテ意外とそういうとこヘタレっぽい??」

「いやだって、こんなデカいんだよ!?」

「だいじょーぶ!! アスカたちの魔法なら一撃でバコーンッ!! ってなるよっ!!」

『それはわれとしても困るところだな』


 僕たちの大きなコソコソ話はやっぱり聞こえていて、ボスグリフォンは落ち着いた、低く響くような声で割り込んできた。


『催眠魔法でこれか……貴様ら、勇者と見た。戦いを挑むというのなら受けて立つべきではあるが、2対1では……いや、3対1か? まあどちらにせよ我の劣勢だろう。出来るなら願い下げしたいところだな。それに貴様らには、感謝せねばならぬ』

「……感謝?」

『ああ。少しそこで待っていろ』


 そう言うと、ボスグリフォンは後ろを向いて森の中に消えていった。


「グリフォンさん、言ってること本当みたい。けっこう優しいひとなのかな?」

「人じゃないけど……そうっぽいね。戦わなくて済むなら僕だってそのほうがいいし、ラッキーだよ」


 しばらくして戻ってきたグリフォンは、クチバシで大きな弓を咥えていた。


『貴様らにこれをやろう』

「えっと、これは?」

『伝説の金の弓だ』

「「で、伝説!?」」


 僕とアスカの高い声がハモる。

 金の弓……その名は実は、さっき魔法を覚える時に目にしたもの。

 ご大層な武器なんだろうなと思ってたけど、そんな伝説級だったとは!! しかもそれを僕たちにくれるって!?


 でも、不思議だった。

 その見た目は一回りサイズの大きな、ごく普通の弓って感じ。どう見たって金でできてるようには見えない。


『これは言うなれば、仮の姿だ。魔法と組み合わせることで真の姿を現す。勇者の貴様らが持つに相応しいその力を、遺憾なく発揮するだろう』

「どうしてそんなスゴいもの、アスカたちにくれちゃうの?」


 弓を受け取ったアスカが尋ねる。

 ボスは、眠るグリフォンズを見渡して言った。


『コイツらは、少し前からクソ魔王に洗脳されている。我だけは辛うじて耐えたがな。そのせいで侵入者に過敏になり、人なら見境なく襲う始末だ。お陰で不眠症にも陥って、どんどん弱くなっている。それを貴様らが魔法で眠らせてくれた。感謝する』

「はあ……それはどうも」


 思わぬことで感謝され、僕は頭をかいた。


『我らの守る黄金も、もともとは我らのものだった。だが今はどうだ。クソ魔王の自堕落な浪費生活のために、守らされているだけにすぎない。大切なものを奪われ、我らは今やただの道具だ。だから勇者よ、貴様らには期待しているぞ』

「ぼ、僕たちに?」

『そうだ。例の件が冒険者の間で噂になっている。推測だが、魔王軍に抗うのだろう?』

「そっ、そうなんだよっ!! アスカたち、マオーグン魔王軍から街を守らなきゃいけないのっ!!」


 そのこと知ってたんだ。

 ここぞとばかりに僕は訊いてみた。


「もしかしてグリフォンさん、なにかもっと詳しい情報とか持ってない?? 時間とか場所とか――」

『すまない、我もそれ以上のことは何も知らなくてな。残念だが力にはなれそうにない』

「そっかぁ。ありがとう」


 まあそりゃそうか。こんな森の奥にいるんだから。


『我もクソ魔王の横暴ぶりには辟易している。応援しているぞ、勇者よ』

「うん、ありがとっ!!」

「僕たち頑張るよ!!」


 優しさに溢れたボスに見送られ、僕たちはその場所をあとにした。




「ぜっっったい僕だね!!」

「アスカのほうがしたいっ!!」

「リアは僕にされたいって思ってるはずだもん!!」

「ダメっ! ハヤテは男の子だから問題ありありだもんっ!!」


 長い言い争いの結果、ジャンケンをして。

 勝った僕がリアを運んで帰ることになった。もちろん、お姫様抱っこで!!


 幸い、モンスターには一度も遭わなかった。



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