第5話 グリフォンズに遭遇!!




「この世界の魔力マナは、地中に無限に存在するの。魔法攻撃っていうのは、それをどれだけ効率よく取り出して、魔法に変えられるかの値ね。だから呪文さえ覚えれば誰でも使えるけど、それが低いと、魔法によっては形にならなかったりするの。あなたたち二人なら、そんなこともまずないでしょうけど」


 それが魔法についてのリアの説明だった。

 無限だから、「MP切れで魔法使えない!!」なんてことはないんだね! それだけでもちょっとすごい。


 僕たちの場合は「完全無欠の魔導書」があって、二人あわせた魔法攻撃は……800越え!! これ、どんなもんなんだろ?


 リアの助言にしたがって、僕たちはまず魔法を片っ端から覚えることにした。

 全部で300近く、中には日本語と異世界の文字っぽいもの、二種類の呪文がある魔法も多かった。

 だから、まずは翻訳魔法と記憶力増幅の魔法を使って、300種を30分足らずで全部覚えた。


 ……いや、僕たち強すぎるよ、おかしいって!!




 僕のチートで一度家に戻って、異世界でも役に立ちそうなものを持ってきてから、僕たちは一本道の脇から深い森に入った。

 虫除けスプレーの匂いにむせるリアも、スマホに興味を示すリアも、どっちもめちゃくちゃ可愛かった。


 森の中にはモンスターがいる――リアはそう言ってたけど、僕たちの運がとってもいいのか、ここまでに出会ったのは野生のオオカミ二匹だけ。

 たぶん日本にもいるような、ごく普通の。それも、魔法を使うまでもなく、僕とアスカで一匹ずつ素手で倒してしまった。

 攻撃400もなかなかだけど、まず体力が段違いだってことがよく分かった。


 一時間ぐらい歩いた頃。


「ねぇリア、やっぱり怖い? これ以上進むのやめよっか」


 リアの足取りが重くなってきたのを感じて、僕は声をかけた。


「はあっ!? そっ、そんなこと全然ないわっ!! だいたいあなたたちが居れば、わたしはなんも危ないことないしっ!!」

「でも、さっきからなんか静かじゃない?」

「そっ、それは……ちょっと歩き疲れただけよ」

「えっとじゃあ……はい」


 僕はしゃがんで両手を後ろに出した。「乗せて差し上げます」の意味で。


「なっ、なによ! そんな、大丈夫だわ! おんぶなんてしてもらわなくたって――」

「ああっ、ずるいよ! リアちゃん、アスカのほうに乗って! ハヤテはオトコ男子だから――」

「ひとりで歩けますっ!! ほら、行くわよっ!!」

「ええ~!!」

「むぅ~っ、つめたい!!」


 リアは僕たちを置いて、スタスタと先に歩いていってしまった。




「それにしても、モンスターが出なさすぎて不気味だけど……そろそろね」


 さらに十分後。

 リアの声は緊張していた。


「この辺りには、大昔から黄金を守ってる、野生のグリフォンがよく出るの。グリフォンって知ってる? 上半身と翼がワシで、下半身がライオンの……ううっ、想像しただけでゾクッとするわ」

ゲンジュー幻獣ってやつ??」

「そっちではそういう言い方をするの? よくは知らないけど……オオカミよりはずっと相手になるはずよ。あっでも、傲慢でたかをくくってるから、積極的に人には攻撃してこない……きゃあっっ!?」


 バサバサバサ……ッ!!

 リアの言葉を遮るように、森の中の開けた場所に辿り着いた僕たちの耳に、無数の大きな羽音が届く。


「うそっ……これ、囲まれてるわ!!」

「へっ!?」


 僕は思わず腰の抜けた声を出した。

 鬱蒼とした木々の向こうから、羽音に加えてギャーギャーというような鳴き声も聞こえ始める。

 これは……初めてのピンチ!?


「ハヤテ! 向こうからアスカたちのこと襲ってくるつもりだよっ!!」

「えっ、でもさっき攻撃はしてこないって、リアが……」

「えっ、ええ! そうよ、そのはず……」

「でもアスカ、確かに感じるんだもん!! 危ないよハヤテ、魔法つかおうよっ!!」


 そっか、思い出した! アスカのチートスキル、きっと悪意を感じるっていうあれに引っかかってるんだ。

 リアが間違えるとも考えにくいけど、やっぱりこっちから先手を打つべき?


 そう考えていたら、あっという間にその獣たちが、木々の間から視界に飛びこんできた。


「ガーガー、ギョワァァァーッ!!」

「ギュルルルルル!!」


 カラスぐらいの小ささだけど、おびただしいほどの大軍。

 確かにワシとライオンをくっつけたような、奇妙で恐怖さえも感じる姿をしたそれらが、ものすごいスピードで僕たちに襲いかかってくる……!!


「さっ、催眠魔法いくよ! アスカ!!」

「おっけーっ!!」

うつろなる夢、幻惑げんわくせよ!!」

「ウォース・ドルミーレ!!」


 集中なんてできず、僕たちは慌てて叫んだ。

 僕が日本語、アスカが異世界語のほうをそれぞれ。

 すると次の瞬間、ドゴーンッ! という感じで空間が震動するような、強い衝撃が僕のすぐ側を横切った。音は一切ない。

 僕は思わず目を閉じる。


「きゃっ!!」


 この叫び声はきっとリアだ。

 けたたましかった羽音と鳴き声が完全に止んだところで、目を開くと――平らな地べたにぐったりと倒れたグリフォンたちが、おっさん顔負けの大イビキをかいて眠っていた。その数ざっと30匹以上。


 これが僕たちの魔法の威力……。一瞬言葉を失った僕は、でもすぐにアスカの言葉で我に返った。


「ねぇハヤテ、たいへんだよっ!! 魔法、リアちゃんにも効いちゃったみたい!!」

「ええっ!?」


 振り返るとそこには、すやすやと気持ちよさそうに虚ろな夢を見る、とっても可愛い女神様がいた。



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